| ILO |
| HIV/エイズと働く世界に関する行動規範 |
| 国際労働機関(ILO)事務局 ISBN 92-2-811633-1 Copyright (c)International Labour Organization 2001 2001年 第1版 発行 |
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目次 序文 |
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| 序文 HIV/エイズは今や地球全体の危機的な問題であり、開発と社会進歩への最大の脅威のひとつとなっている。この感染症の影響が最も深刻な国々は、何十年にも及ぶ開発の成果を蝕まれ、経済が疲弊し、安全が脅かされ、社会不安を招いている。特にサハラ以南のアリカ地域への影響は破壊的であり、もはや緊急事態に至っている。 HIV/エイズは、患者あるいは感染者個人とその家族を苦しめるばかりでなく、社会経済構造にも深刻な影響を与えている。それは働く世界への重大な脅威である。最も生産的な年齢層の労働力を冒して収入を減ずるとともに、生産性の低下、労働費用の増加、技能経験の喪失を通じて、あらゆる部門の企業に莫大な損失を課している。さらに、患者や感染者への差別や汚名という問題を生じ、労働における基本的な権利をも侵している。この染症の影響は、女性や子供など社会的な弱者において最も深刻であり、ジェンダーを理由 とする不平等の拡大、児童労働問題の悪化が進んでいる。 ILOがHIV/エイズと働く世界に関する行動規範を発表することにより、強い意見表明を行うに至った理由は、このようなものである。行動規範は、感染症の拡大防止、労働者と家族への影響緩和、必要な社会保護の提供の助けとなるだろう。職場での取組みの基礎となる主要な原則として、行動規範はHIV/エイズが職場の問題であることの認識、雇用における差別禁止、ジェンダーの平等、検査と秘密保持、社会対話、予防・治療・援助等を定めている。 行動規範は、ILO とそれを構成する政労使三者との共同作業並びに連携する国際的パートナーとの協力の成果である。それは政策担当者、労使団体その他社会的パートナーに対して、適切な職場レベルの施策及び予防・治療計画の企画実施やインフォーマル・セクターの労働者対策の実現のための貴重な実践的指針を提供するものであり、HIV/エイズとの地 球全体の戦いへのILOの重要な貢献である。 人道と開発が大きな危機に直面する中で、行動規範は、ILOが推進する「ディーセント・ワーク」(安心して働ける仕事)の諸条件を守るために役立つだろう。この危機への対応方法については、既に貴重な教訓が得られている。感染の拡大を遅らせ、患者・感染者個人や地域社会への影響を和らげることにある程度成功した国も少数ながらある。模範的な事例では、責任あるリーダーシップ、多部門からのアプローチ、患者・感染者を含む市民社会とのパートナーシップ及び教育が重要な役割を果たしている。これらは行動規範の主要な原則に反映されるとともに、行動規範の実行を社会的パートナーの活動に委ねる理由ともなっている。 この文書は前向きかつ先駆的なものである。現在のHIV/エイズ問題に立ち向かい、その将来の結果と働く世界へ影響を見据えている。この行動規範により今後さらに、ILO はHIV/エイズに感染/罹患したすべての労働者そして市民の権利と尊厳を守る国際的、国家的な活動への支援を強化していくつもりである。 |
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| ジュネーブ、2001年6月 フアン・ソマビア事務局長 |
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| 1.目的 この規範の目的は、ディーセント・ワーク(安心して働ける仕事)の推進の観点から、働く世界におけるHIV/エイズ対策のガイドラインを提供することである。ガイドラインは次の主要な行動領域を対象とする。 HIV/エイズの予防 HIV/エイズの働く世界への影響を管理し、緩和すること HIV/エイズに冒された労働者の介護と援助 HIV 感染状況、あるいはその可能性を理由とする汚名と差別の撤廃 2.使用 この規範は次の場合に使用されるべきである。 企業、地域社会、地方、産業、国及び国際レベルで具体的な対応を図る場合 政府、労使及びそれぞれの代表、労働衛生担当者、HIV/エイズ問題の専門家、その他すべての関係者(地域団体及び非政府組織[NGO]を含む。)の間で対話、協議、交渉その他あらゆる形態の協力を推進する場合 社会的パートナーとの協議により、次のような方法で規範の内容に実効性をもたせる場合 − 国の法律、政策、行動計画 − 職場/企業レベルの協定 − 職場の指針と行動計画 3.使用範囲と規範中の用語の定義 3.1. 使用範囲 この規範の使用範囲は次のとおりである。 公共・民間部門のすべての使用者と労働者(求職者をも含む。) フォーマル、インフォーマルを問わず、労働のあらゆる局面 3.2. 規範中の用語 HIV(エイズウイルス):ヒト免疫不全ウイルスを意味する。体の免疫システムを弱め、最終的にエイズを引き起こすウイルスのことである。 被害者:HIV/エイズが与える広範な影響により、生活が何らかの形で変わってしまった人々を指す。 AIDS(エイズ):後天性免疫不全症候群を意味する。日和見感染や日和見腫瘍がよく見られる一群の症状であり、現在のところ治療法はない。 差別:この用語は、1958 年の差別(雇用と職業)条約(ILO 第111号条約)の定義に従い、HIV 感染状況を理由とする差別を含むものとして、この規範で使われる。また、性的志向を理由とする差別などHIV感染状況の可能性を理由とする差別を含む。 身体障害者:この用語は1983 年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)条約(ILO第159号条約)の定義に従って使用される。すなわち、正当に認定された身体的、又は精神的障害のため、適当な職業に就き、これを継続し、及びその職業において向上する見通しが相当に減少している者を指す。 使用者:国内法及び国内慣行に従って、双方の権利と義務が発生する口頭もしくは文書による雇用契約のもとに労働者を雇用する人または組織を意味する。政府、公的機関、民間企業、個人が使用者になる。 職業衛生機関(OHS):この用語は、1985年の職業衛生機関条約(ILO 第161 号条約)の記述に従って、この規範で使用される。すなわち、基本的には予防的機能をもつ衛生機関であり、労働におけるの最適な身体的、精神的健康を促進する安全で健康な作業環境及び作業方法を設定・管理するために必要な事項について、使用者及び労働者・労働者代表に助言する責任を有する。身体的、精神的健康状態から見た能力に合わせて、作業を調整することについても助言を与える。 正当な就業調整:無理なく実行できる仕事や職場の変更、あるいは調節であって、HIV/エイズに感染/罹患した人々に就職活動、雇用または昇進を可能にするものを意味する。 スクリーニング(審査):直接的方法(HIV 検査)、間接的方法(感染の危険を冒す行動の有無の調査)、また過去に受けたことがある検査や薬の服用について質問することを含む。 性及びジェンダー:男女間には生物学的な違い、社会的な違いの両方がある。「性」は生物学的に決定される違いを指し、他方「ジェンダー」は男女間の社会的な役割・関係の違いを意味する。ジェンダーを基礎とする役割は社会への順応によって学習されるものであり、それは異文化間においても、またひとつの文化圏の中でも極めて多様である。それには年齢、階級、人種、民族、そして宗教の影響が見られ、また地理的、経済的、政治的環境によっても左右される。 STI:性的な接触によって起こる感染症であり、梅毒、軟性下疳、クラミジア、淋病が代表的である。一般に性感染症(STD)として知られている症状も含まれる。 雇用の終了:1982 年の雇用終了条約(ILO第158 号条約)の場合と同じく、使用者の発意による解雇を意味する。 普遍的予防策:血液によって運ばれる病原体の危険を最小限にするための簡単な感染防止行動基準である(詳細は、付属資料U参照)。 非正規産業(インフォーマル・セクターとも呼ばれる。)に従事する労働者:付属資料T参照。 労働者代表:1971 年の労働者代表条約(ILO 第135 号条約)に従い、国内法または国内慣行で労働者代表と認められる者を指す。次のいずれでもよい。 労働組合代表、すなわち、労働組合または労働組合員が指名または選出した代表者 被選出代表、すなわち、企業の労働者が国内法令または労働協約に従って自由に選出し た代表者であって、その任務に当該国において労働組合の専権事項と認められている活動が含まれていないもの 弱者問題あるいは弱点:社会経済的な力の欠如と文化的な関連状況、感染の危険を高めるような労働状況、そして子供が児童労働に巻き込まれる危険を高めるような状況を指す。 4.主要な原則 4.1. HIV/エイズが職場の問題であることの認識 HIV/エイズは職場の問題であり、職場における他の重い病気・症状と同様に扱われるべきである。その理由はHIV/エイズによって労働力が影響を受けるばかりでなく、職場も地域社会の一員として、感染症の影響及び拡大を制限するための広範囲な戦いにおいて果たすべき役割を持つからである。 4.2. 差別禁止 「ディーセント・ワーク」(安心して働ける仕事)の精神及びHIV/エイズの感染者/被害者の人権と尊厳の尊重の観点から、HIV 感染またはその可能性を理由とする労働者の差別がないようにすべきである。HIV/エイズに感染/罹患した人々への差別と汚名はHIV/エイズの予防を推進する努力を阻むものである。 4.3. ジェンダーの平等 HIV/エイズがジェンダーに関わる問題であることが認められるべきである。女性は男性よりも、生物学的、社会文化的、経済的理由により、HIV/エイズに感染しやすく、また被害を受けやすい。社会におけるジェンダー差別が強く、女性の地位が低いほど、HIV/エイズによる被害は深刻なものとなる。したがって、より平等なジェンダー関係と女性の力の強化が、HIV/エイズ感染の拡大阻止と女性自身のHIV/エイズ対処のために不可欠である。 4.4. 健康的な労働環境 HIV/エイズ感染防止のために、1981 年の職業上の安全及び健康に関する条約(ILO 第155 号条約)の規定に従い、労働環境はすべての関係者にとって実行可能な限り健康的で安全であるべきである。健康的な労働環境は、労働における身体的、精神的健康の最適化と身体的、精神的健康状態から見た労働者の能力に合わせた作業調整を促進する。 4.5. 社会対話 HIV/エイズに関する政策及び事業計画の実施を成功させるためには、使用者、労働者・労働者代表及び政府の協力と信頼が必要であり、また適切な場合にはHIV/エイズの感染者・被害者である労働者の積極的な関与が求められる。 4.6. 仕事あるいは作業工程からの排除を目的とする審査 求職者または被用者について、HIV/エイズに関する審査が要求されるべきではない。 4.7. 秘密保持 HIV に関連する個人情報を提示するよう求職者または労働者に求めることは、正当ではない。同様に、このような個人情報を明らかにするように同僚労働者に義務付けるべきでもない。HIV 感染状況に関する労働者の個人データへのアクセスは、1997年の労働者の個人情報保護に関するILO実施規範に合致する秘密保持のルールにより規制されるべきであ る。 4.8. 雇用関係の継続 HIV感染は雇用終了の理由とはならない。他の多くの疾病同様、HIV 関連の病気にかかっている人々は、健康状態が適切かつ配置可能な仕事への就業に適している限り、これに従事することが認められる。 4.9. 予防 HIV 感染は予防できる。あらゆる感染経路の遮断は、国内条件を的確にとらえ、かつ文化的側面にも配慮した多種多様な戦略の組合せによって達成できる。 予防は行動変化、知識、治療、そして差別のない環境作りによって、さらに強化できる。 社会的パートナーは、情報と教育の付与を通じて態度や行動を変化させ、あるいは社会経済的要因に対処すること等によって、予防活動を推進する特有な立場にある。 4.10. 介護と援助 連帯・介護・援助を、働く世界におけるHIV/エイズ対策の指針とすべきである。HIVに感染した労働者を含むすべての労働者は、実施可能な保健サービスを受ける資格がある。 HIV/エイズに感染した労働者及びその扶養家族に対して、法定社会保障制度及び職域制度の給付の申請・受給について差別がないようにすべきである。 5.一般的な権利と責任 5.1. 政府及び権限のある機関 一貫性:政府はHIV/エイズに関する国の計画に働く世界に関する事項を含めることの重要性を認識し、例えば、エイズに関する国の諮問機関委員に労使、HIV/エイズに感染/罹患した人々、そして労働・社会問題を担当する省の代表を必ず入れることなどにより、HIV/エイズに関する国の政策・事業計画の一貫性を確保する必要がある。 多部門からの参加:権限のある機関は、保護と予防のために、働く世界におけるパートナーが最大限関与するよう、公的機関、民間部門、労使団体その他すべての関係者の広範な協力を求めるとともに、それらを支援すべきである。 調整:政府は国レベルのあらゆる参加を促進・調整すべきであり、これにより、働く世界からも参加できるよう、また社会的パートナーその他あらゆる関係者の存在も生かされるようにすべきである。調整はすでにある施策や援助制度をふまえて行うべきである。 予防と健康増進:権限のある機関は、他の社会的パートナーに働きかけ、これらと共同で、特に職場おける意識の向上と予防対策の促進を図るべきである。 医療指針:第一義的に使用者が労働者に保健サービスを直接提供する責任を負う国では、政府はHIV/エイズに関する介護と医療管理について使用者を支援するため、ガイドラインを提供すべきである。 社会保護:政府は、国内法令に基づく給付制度の適用にあたりHIV/エイズに感染/罹患した労働者が他の重い病気を持つ労働者に比べて不利にならないようにすべきである。 社会保障制度の企画実施にあたり、政府はHIV/エイズの進行的、周期的な性質を考慮に入れ、それに合わせた仕組みを作成すべきである。そのような仕組みとは、例えば、給付を必要な時に必要なだけ供給できるようにすることや給付請求を迅速に処理することなどである。 調査:国のエイズに関する計画との一貫性を確保し、社会的パートナーを動員し、職場、社会保障制度及び経済への費用を積算し、そして社会経済的影響を緩和する計画づくりを援助するために、権限のある機関は、人口推計、発生率・有病率の研究及び好事例の研究を奨励・援助・実施するとともに、その結果を公表すべきである。政府はこれを達成するために、制度及び規制の仕組みを整備するよう努めるべきである。このような調査の一環として、使用者・使用者団体及び労働者団体の研究成果とデータを使用し、ジェンダーに着目した分析が行われるべきである。データ収集はできる限り、産業部門を明示し、性、人種、性的志向、年齢、雇用・職業の状況別に細分化して行われるべきであり、また文化的要素にも配慮して行われるべきである。可能であれば、永続する影響の評価体制が確立されるべきである。 財源措置:政府は、可能な場合は社会的パートナーその他関係者と協議のうえ、HIV/エイズ関係の財政負担を見積もり、関係する場合は社会保障制度も含め、国のエイズ対策に必要な資金を内外から確保するよう努めるべきである。 法律:職場における差別をなくし、職場における予防と社会保護を徹底させるため、政府は社会的パートナー及びHIV/エイズ専門家と協議のうえ、関係する規制の仕組みを整備するとともに、必要な場合には労働法その他法律を改正すべきである。 政府による援助の条件:政府は起業資金や補助金を内外の企業に提供する場合、当該企業が国内法を遵守することを求めるとともに、この規範あるいはその規定を実施する政策または他の規範の遵守を奨励すべきである。 執行:権限のある機関は使用者及び労働者に対して、HIV/エイズと働く世界に適用される法令の最も効果的な遵守の方法について専門的な情報及び助言を提供すべきである。また、工場/労働監督機関や労働裁判所、労働審判所のような執行組織・手続を強化すべきである。 非正規産業(インフォーマル・セクターとも呼ばれる。)の労働者:政府は所得創出や社会保護のためのものを含め、HIV/エイズ予防対策事業をこれらの労働者も対象とするよ う拡大適用するとともに、その内容を調整すべきである。また、政府は適切な場合、地域社会を活用する新しい方法を企画・展開すべきである。 影響緩和:政府は公的保健医療制度、社会保障制度、その他の関係する施策によって、介護と援助を推進すべきである。また、政府は治療が確実に受けられるよう尽力するとともに、適切な場合には労使団体と協力して対応するよう努めるべきである。 児童及び青少年:児童労働を撲滅する事業計画において、政府は、親がHIV/エイズで病気であるか、あるいは死亡した児童や青少年への影響について確実に注意を払うべきである。 地域協力及び国際協力:国際社会がHIV/エイズとこれに関連する働く世界のニーズに注目するよう、政府は地域協力及び国際協力を促進し、援助するとともに、これにあたり政府間機関その他の関係機関を活用すべきである。 国際援助:政府は、国の事業計画を支援するため、適切な場合には国際援助に協カすべきである。抗レトロウイルス薬の費用負担を軽減し、また入手しやすくしようとする国際キャンペーンへの支援活動を政府は奨励すべきである。 弱者問題:政府は感染する危険が大きい労働者グループを確認する措置を講ずるとともに、その要因を断つ戦略をとるべきである。また、政府はこれらの労働者に対する適切な予防対策の確保に尽力すべきである。 5.2. 使用者・使用者団体 職場指針:使用者は、感染の拡大を防止するとともに、HIV/エイズを理由とする差別からすべての労働者を保護するための適切な職場指針を開発・実施するため、労働者・労働者代表と協議すべきである。付属資料Vに、職場指針の企画・実施のためのチェックリストが添付されている。 全国、産業及び職場/企業レベルの協定:使用者は、労働者・労働者代表とHIV/エイズ問題に関する雇用条件を交渉するにあたり国内法及び国内慣行に従うとともに、全国、産業、職場/企業レベルの協定の中にHIV/エイズの予防と保護に関する規定を設けるよう尽力すべきである。 教育訓練:使用者・使用者団体は、労働者・労働者代表との協議のうえ、HIV/エイズに関する予防、介護及び援助、そしてHIV/エイズに関する企業の指針について、職員のための情報提供・教育・訓練事業を職場で開始し、援助すべきである。HIV/エイズに関する企業の指針には、HIV/エイズ感染者・被害者への差別を少なくするための措置や具体的な職員への給付、権利が含まれる。 経済的影響:使用者・使用者団体及び労働者・労働者団体は互いに協力して、その職場と産業へのHIV/エイズの経済的影響を評価し、的確に対応するための適切な対策を展開すべきである。 人事政策:使用者は、HIV/エイズの感染者あるいは被害者である労働者を差別する人事政策または人事慣行を採用・許可すべきでない。特に使用者は以下のことを守るべきである。 − HIV/エイズの審査または検査を、この規範8 に規定されている場合を除き、要求しない。 − HIV 感染状況またはその可能性を理由とする差別も汚名もなく、働けることを保障する。 − HIV/エイズに関連する病気を持つ者の健康状態が適する限り、適切な仕事で働くことを奨励する。 − エイズ関連の症状を持つ労働者の健康状態が悪く、就業継続が困難であり、かつ、疾病休暇延長を含め代替的な就業調整措置も使い尽くされた場合には、差別なく、労働法に従い、かつ、一般手続と充分な給付に配慮して、雇用関係を終了させることができることを規定する。 苦情及び懲戒手続:使用者は、労働者・労働者代表が利用できる、仕事に関する苦情の処理手続を持つべきである。この手続は、HIV 感染状況あるいはその可能性を理由に差別する職員や、またはHIV/エイズに関する職場指針に違反する職員に対して、どのような状況であれば懲戒手続を開始できるかを具体的に規定すべきである。 秘密保持:労働者に関するHIV/エイズ関連の情報は厳重に秘密とされるとともに、情報の利用が1985 年の職業衛生機関勧告(ILO 第171 号勧告)、国内法及び国内慣行に従って行われる医療ファイルにおいてのみ保持されるべきである。このような情報の利用は医療担当職員に厳重に制限されるべきであり、かつ法に基づき必要とされる場合または当該者が同意する場合のみ開示できる。 危険緩和と危機管理:使用者は普遍的予防策の適用及び保護具の備付け・維持管理、応急手当等の措置により、安全で衛生的な労働環境を確保すべきである。また、個人の行動の変化を支援するために、使用者は適切な場合には男性用・女性用コンドーム、カウンセリング、介護、援助及び紹介サービスを利用できるようにすべきである。規模と費用の観点からこれが難しい場合、使用者・使用者団体は、政府その他関係機関からの支援を求めるべきである。 職員が常態的に血液・体液を取り扱う職場:このような職場では使用者は、全職員が普遍的予防策について訓練されていること、仕事における事故の際にとるべき手続について職員が知っていること、また普遍的予防策が常に遵守されることを確保するため追加的な措置を講ずべきである。これらの措置のために便宜が図られるべきである。 正当な就業調整:使用者は労働者・労働者代表と協議のうえ、エイズ関連の病気をもつ労働者を無理なく受け入れるための措置をとるべきである。このような措置としては、労働時間の再調整、特別な休暇、休憩時間、診療時間中の労働免除、病気休暇の弾力的な扱い、パートタイム労働、職場復帰の手配などが考えられる。 提言:よき企業市民の精神に則り、使用者・使用者団体は適切な場合には、職場におけるHIV/エイズ予防と管理に貢献するよう使用者を奨励するとともに、政府に対してもHIV/エイズの拡大阻止と影響緩和のために必要なあらゆる行動を起こすよう奨励すべきである。HIV/エイズに関する労使共同協議会など、他の協力関係もこれに役立つことができる。 HIV/エイズに関する秘密で自主的な相談及び検査への援助:使用者・使用者代表及び労働者・労働者代表は、資格ある医療機関が提供する秘密で自主的なカウンセリングと検査への援助とその利用を奨励すべきである。 非正規産業(インフォーマル・セクターとも呼ばれる。)の労働者:インフォーマル・セクターの使用者は調査を実施するとともに、適切な場合には、職員のために予防・介護プログラムを開発すべきである。 国際協力:使用者・使用者団体は適切な場合には、HIV/エイズと闘う国際協力に貢献すベきである。 5.3 労働者・労働者団体 職場指針:労働者・労働者代表は、感染の拡大を予防するとともに、HIV/エイズを理由とする差別からすべての労働者を保護するための適切な職場指針を実施するため、使用者と協議すべきである。職場指針の企画・実施のためのチェックリストが付属資料Vに添付されている。 全国、産業、職場/企業レベルの協定:労働者・労働者団体は、HIV/エイズ間題に関する雇用条件を交渉するに当たっては、国内法及び国内慣行に従うとともに、全国、産業、職場/企業レベルの協定の中にHIV/エイズの予防及び保護に関する規定を設けるよう尽力すべきである。 情報と教育:労働者・労働者団体は既存の労働組合組織や他の組織・施設を利用して、職場においてHIV/エイズに関する情報を提供するとともに、労働者とその家族に適した教材や教育活動を開発すべきである。このような情報には、労働者の権利と給付について定期的に更新される情報が含まれる。 経済的影響:労働者・労働者団体は、使用者と互いに協力して、その職場と産業へのHIV/エイズの経済的影響を評価し、適切な対策を展開すべきである。 提言:労働者・労働者団体は、使用者・使用者団体及び政府と協力して、HIV/エイズの予防と管理についての意識向上を図るべきである。 人事政策:労働者・労働者代表は、HIV/エイズの感染者/患者である職員を差別しない人事政策及び人事慣行の確立・実施について、使用者を支援・奨励すべきである。 遵守状況の監督:労働者代表は、苦情手続及び懲戒手続により職場で問題を提起する権利があり、またはHIV/エイズを理由とするあらゆる差別を適切な法的機関に報告すべきである。 研修:労働者団体は、HIV/エイズにより引き起こされる職場の問題、適切な対応策、そしてHIV/エイズに感染/罹患した人々や介護者の一般的なニーズについて、労働者代表のための研修コースを開発・実施すべきである。 危険緩和と危機管理:労働者・労働者団体は、使用者に対して、保護具の正しい使用・維持管理と応急手当を含め、安全で衛生的な労働環境を維持するよう求めるとともに、これについて使用者と協力すべきである。また、労働者・労働者団体は作業環境の弱点を評価し、適切な場合は労働者のための特別対策を推進すべきである。 秘密保持:労働者は自分の個人ファイル・医療ファイルを閲覧する権利がある。労働者団体は、労働者のHIVに関係する人事情報を利用できないこととすべきである。労働組合の任務・機能の遂行に当たっては、1985年の職業衛生機関勧告(ILO 第171 号勧告)における秘密保持の規定及び当事者の同意の要件がすべての場合に適用されるべきである。 非正規産業(インフォーマル・セクターとも呼ばれる。)の労働者:労働者・労働者団体は、適切な場合には他の関係者と協力して、活動の対象をインフォーマル・セクターの労働者に拡大するとともに、HIV/エイズの拡大阻止と影響緩和に資する新しい対策を援助すべきである。 弱者問題:労働者・労働者団体は、使用者と協議のうえ、特定の労働者グループの感染リスクを高める要因への対応を確保すべきである。 HIV に関する秘密で自主的なカウンセリングと検査への支援:労働者・労働者団体は、使用者と協力して、秘密で自主的なカウンセリングと検査を奨励し、援助すべきである。 国際的パートナーシップ:労働者団体は、HIV/エイズと働く世界の問題を強調するとともに、この問題を労働者の権利に関する啓発活動の対象とするために、産業、地域、国際レベルの組織を活用して、国境を越えた連帯を樹立すべきである。 6.情報と教育による予防 職場における情報・教育プログラムは、感染の拡大と闘うため、またHIV/エイズに感染/罹患した労働者への寛容性を養うために不可欠である。効果的な教育により、労働は自らをHIV 感染から守ることができるようになる。HIV に関連した不安や汚名を著しく減らし、職場における混乱を最小にし、態度や行動の変化をもたらすことができる。プログラムは、最大の支援と関係者全員の完全参加を確保するために、政府、使用者及び労働者あるいはこれらの代表者の間の協議により展開されるべきである。情報と教育は、文章のみに頼るのではなく、また必要な場合は通信教育も含め、様々な方法で提供されるべきである。その内容は的を絞り、かつ、年齢、性別、性的志向、産業の特徴及び当該労働者の行動パターンに見られる危険要因とその文化的な背景に合わせて作成されるべきである。 その提供は、信頼・尊敬されている個人が当たるべきである。同僚による教育やHIV/エイズの感染者/患者も巻き込んだプログラムの企画・実施は特に効果があったことが分かっている。 6.1. 情報と啓発キャンペーン 情報プログラムは、可能な場合、地域社会、産業、地方、または全国のより広範なHIV/エイズ・キャンペーンと連携して行われるべきである。その内容は、HIV/エイズの感染経路・非感染経路、HIV/エイズをめぐる根拠のない思い込みの払拭、感染の予防法、感染症の病理、エイズが個人に与える影響、そして介護・援助・治療の可能性に関する正確な最新情報に基づいて作成されるべきである。 実行可能であれば、情報プログラム、研修及びキャンペーンは、既存の教育・人的資源政策や労働安全衛生・反差別政策の中に組み込まれるべきである。 6.2. 教育プログラム 教育政策は、使用者・使用者代表と労働者・労働者代表との協議を基礎とすべきものであり、必要な場合はこの協議にHIV/エイズの教育・カウンセリング・介護を専門とする政府その他関係機関を加えるべきである。教育方法は、可能な限り双方向・参加型のものとすべきである。 有給での就業時間中の実施や、職場外でも使える教材開発について検討されるべきである。研修が実施される場合には、出席は業務の一部とみなされるべきである。 教育プログラムは、実用的でかつ適切な場合には、以下のことを行うべきである。 − (個別であれ、グループの一員としてであれ)個人が直面するリスクを評価し、これを決定・交渉・コミュニケーション技術や、教育・予防・カウンセリング活動によって減少させることを支援する。 − 業務上の移動のように、特定の労働者グループの感染リスクを高める行動その他の要因を特に強調する。 − 薬物注射を通じたHIV感染やこのような感染リスクを軽減する方法について情報を提供する。 − 近隣諸国間あるいは、世界の各地域レベルで政府、労働者団体及び使用者団体の間の対話を強化する。 − 政府及び企業が労働者団体と共同で行う訓練事業の中でHIV/エイズに関する啓発を図る。 − 若年労働者と女性へのキャンペーンを推進する。 − 女性がHIVに感染しやすいこと、この弱点を減少させるための予防対策を特に強調する(6.3.を参照)。 − HIV は日常の接触では感染しないこと、HIV 陽性の人々を避けたり汚名をきせる必要はなく、むしろ支援し、職場で受け入れるべきであることを強調する。 − ウィルスの体力減退効果と、HIV/エイズに感染/罹患した労働者に対しては、すべての労働者が気遣い、これを差別しない必要があることを説明する。 − 労働者に対して、HIV/エイズへの反応や感情を表現し、討論する機会を与える。 − 労働者(特に医療労働者)に普遍的予防策の適用について指導し、接触した場合にとるべき手順について知らせる。 − STI(性的感染症)と結核の予防・管理について教育する。これは付随的なHIV感染の危険性のためだけではなく、これらの病気は治療が可能であり、労働者の一般的な健康と免疫力を向上させることができるためである。 − 衛生と適切な栄養摂取を推進する。 − 男性用・女性用コンドームの使用に関する指導を含め、より安全な性の実践を推進する。 − 同僚による教育及び非公式の教育活動を奨励する。 − プログラムの定期的な点検・評価・見直しを行い、必要な場合には改訂する。 6.3. ジェンダー別プログラム すべてのプログラムはジェンダーや人種、性的志向について配慮すべきである。このような配慮の方法として、男女の労働者が直面するHIV/エイズによる危険のタイプや程度の違いを認識した上で、女性、男性の双方を対象にしたり、あるいは、女性、男性を分けて事業を行うことなどがある。 女性への情報提供に当たっては、女性が感染する危険度が高いこと、特に若い女性が非常に感染しやすいことについて、警告・説明する必要がある。 教育は、女性と男性の両方が、雇用や個人生活において互いの力関係が同じではないことを理解し、それをふまえて行動することを支援すべきである。特にハラスメント(いやがらせ)及び暴力の問題について取り組むべきである。 プログラムは、女性が職場内外における自分の権利を理解することを助けるとともに、自分を守る力を持たせるようにすべきである。 男性への教育としては、意識向上、リスク評価や男性のHIV/エイズ予防責任強化策が含まれるべきである。 同性愛の男性を適切な形で対象とする予防プログラムが、これら労働者やその代表と協議のうえ、開発されるべきである。 6.4. 健康増進プログラムとの連携 教育プログラムは、可能な場合には、職場における薬物濫用、ストレス、母性保護のような問題を扱う健康増進プログラムと連携を持つべきである。既存の労使協議や安全衛生委員会は、HIV/エイズに関する意識啓発キャンペーンや教育プログラムヘの出発点となる。 このような連携により、汚染された静脈注射針の使用が感染の危険を高めることを強調すべきである。またアルコールや麻薬による陶酔も、感染の危険を増大させる行動に結びつきやすいということを強調すべきである。 6.5. 行動の変化を支援する実用的な対策 労働者に対し、危険を減らす方策について鋭敏、正確かつ最新の教育を行うとともに、適切な場合には、男性用及び女性用コンドームを利用できるようにすべきである。 適切な場合には、さらに性的感染症や結核の早期かつ効果的な診断・治療・管理、そして殺菌された注射針・注射器交換法も利用できるようにすべきであり、あるいはこれらを提供する機関の情報が与えられるべきである。 資金を必要とする女性労働者に対しては、収入獲得方法、税の減免、賃金補助に関する情報の提供等により、低所得を補う方策を教育すべきである。 6.6. 地域社会プログラム 使用者・使用者団体及び労働者・労働者団体は、地域社会、特に学校において、HIV/エイズの予防と管理に関する情報・教育プログラムを奨励し、推進すべきである。これヘの参加は、人々が意見を表明する機会を与えるとともに、HIV/エイズに感染/罹患した労働者の孤立化と追放を減らして彼らの福祉を高めるために奨励されるべきである。このようなプログラムは国あるいは地域の適切な機関と協力して運営されるべきである。 7.研修 研修は、受け手である次のような様々なグループに焦点を当て、それぞれのグループに合うように調整して行うべきである。すなわち、@管理者、監督者、人事担当者、A労働者・労働者代表、B研修指導員を指導する者(男女双方)、C同僚間の指導者、D労働安全衛生担当者、E工場/労働監督官。そして費用を賄うために、新しい方法が検討されるべきである。例えば、企業は、国や他の関係者のエイズ対策からの研修指導員の派遣や企業の指導員への研修指導を受けるなど、外的な支援を求めてみることができる。研修の教材は、得られる財源等に応じてかなり多様であることができ、また地域の習慣や男女間の環境に合わせて調整することができる。指導員は少数派に属する人々への偏見、特に民族的出身あるいは性的志向に関連する偏見に対処できるよう訓練されるべきである。指導員は事例研究や好事例に関する教材を利用すべきである。最も良い指導員は職員自身であることが多く、そのために同僚間の教育があらゆるレベルで推奨されている。同僚間の教育は、労働者代表との協議によって作成される職場の年間研修計画に含まれるべきである。 7.1. 管理者、監督者、人事担当者の研修 すべての労働者が対象となる情報・教育プログラムへの参加に加えて、監督、管理担当の職員は、以下の研修を受けるべきである。 − HIV/エイズに関する職場指針について説明し、質問に回答できるようにする研修 − HIV/エイズに関する十分な知識を与え、他の労働者が職場におけるHIV/エイズ拡大に関する誤解を乗り越える手助けができるようにする研修 − HIV/エイズに感染/罹患した労働者ができるだけ長く勤務を継続できるように、正当な就業調整の選択肢を説明するための研修 − HIV/エイズに感染/罹患した労働者を差別し、疎外する職場での態度、行為、あるいは慣行を把握し、管理するための研修 − HIV/エイズに感染/罹患した労働者に、利用可能な医療サービスと社会給付について助言できるようにする研修 7.2. 同僚間の指導者の研修 同僚間の指導者は以下のことができるように、専門的な研修を受けるべきである。 − 情報・教育プログラムの全部または一部を職員を対象に実施できるように、HIV/エイズ予防対策の内容と方法について十分な知識を得る。 − 同僚職員への研修を開発・実施するにあたって人種、性的志向、ジェンダー、文化に配慮する。 − 職場におけるセクシャル・ハラスメント(性的いやがらせ)や障害者に関する既存の職場指針と関連づけ、これを活用する。 − 同僚職員が感染の危険を高める生活要因を把握できるようにする。 − HIV/エイズに感染/罹患した労働者に対し、病状とその影響への対処について助言できるようにする。 7.3. 労働者代表の研修 労働者代表は、有給の就業時間内に、以下のことのための研修を受けるべきである。 − HIV/エイズに関する職場指針を説明し、質問に回答できるようにする。 − 他の労働者を研修指導員教育プログラムで訓練することができるようにする。 − HIV/エイズに感染/罹患した労働者を差別あるいは疎外する職場での行為と対決し効果的に闘うために、個々の態度、行為、あるいは慣行を把握する。 − エイズ関連の病気を持つ労働者から要請があれば、正当な就業調整の利用を支援するとともに、その利益を代表する。 − 労働者に対し、私生活における危険要因の把握とその縮小について助言できるようにする。 − 職場におけるHIV/エイズ拡大について労働者に情報を与えることができるように、HIV/エイズに関する十分な知識を得る。 − 労働者代表としての任務遂行する間に得た、HIV/エイズに感染/罹患した労働者に関する情報は秘密保持を保証する。 7.4. 労働安全衛生担当者の研修 労働安全衛生担当者は、すべての労働者に対する情報・教育プログラムに加えて、以下のことができるように、専門的な研修を受けるべきである。 − HIV/エイズ予防対策の内容と方法について十分な知識を得て、労働者に対して情報・教育プログラムを実施できるようにする。 − 作業環境を評価するとともに、HIV/エイズに感染/罹患した労働者の弱点を減少させるために変更し改善できる作業方法あるいは作業条件を把握できるようにする。 − 使用者が労働者のために、安全な応急手当を含め、衛生的で安全な作業環境と作業方法を提供し維持しているかどうか検査する。 − HIV/エイズ情報があれば、労働者に関する他の医療データと同様に厳格に秘密が保持され、労働者の個人情報保護に関するILO 実施規範に基づいてのみ開示されることを確保する。 − 労働者に対し、私生活における危険要因の把握と縮小について助言できるようにする。 − 労働者のニーズに的確に対応できる企業内外の医療機関への紹介ができるようにする。 7.5. 工場/労働監督官の研修 権限のある機関は、工場/労働監督官に対し、特に企業におけるHIV/エイズ予防に関する監督・執行・助言機能を実施するに十分な手段を確保すべきである。これを達成するために、工場/労働監督官は職場におけるHIV/エイズ予防と保護対策について専門的な研修を受けるべきである。研修では以下のことを取り扱うべきである。 − 関係する国際労働基準、特に1958年の差別条約(雇用と職 業)(ILO第111 号条約)、及び国内法令に関する情報。 − 労働者及び使用者に対し、HIV/エイズに関する認識を持たせる方法。 − 定期的な労働安全衛生概況説明及び職場研修の話題に、HIV/エイズに関することを取り入れる方法。 − 利用可能な給付に関する手続(給付に関する書式の記入方法など)、及び他の法的権利の行使について労働者を助ける方法。 − HIV 感染状況に関連する労働者の権利の侵害やその実施の欠如を確認する方法。 − 本規範に則り疫学的・社会的影響調査を実施するために、職場におけるHIV/エイズに関するデータを収集・分析する技法。 7.6. 血液その他体液に触れる労働者の研修 すべての労働者は、職場における事故の際に感染を防止する方法及び応急処置についての研修を受けるべきである。この研修では次のことが含まれるべきであり、また予防のための処置を行うことは、個人のHIV感染またはその可能性とは必ずしも関係がないということを強調すべきである。 − 応急処置 − 人の血液その他体液への接触の危険を減らすための普遍的予防策(付属資料U参照) − 保護具の使用 − 人の血液その他体液に触れた場合にとられるべき正しい処置 − 労災事故が起きた場合に補償を受ける権利 8.検査 本規範が特に規定する場合を除き、HIV 検査を職場で実施すべきではない。それは不必要であり、労働者の人権及び尊厳を危険にさらすことになる。検査結果が暴露され、悪用される可能性があるからである。また労働者のインフォームド・コンセント(情報提供を受けたうえでの同意)も常に全く拘束を受けないというのは不可能であり、検査のすべての事実と結果に対する評価に基づくものとは限らないのである。職場外においてさえ、秘密を保持したHIV 検査は自発的なインフォームド・コンセントがあってはじめて行われるべきものであり、最大限厳しく秘密を保持したうえ、適切な資格を有する職員によって行われるべきである。 8.1. 募集と雇用における検査の禁止 HIV 検査は募集時にまたは雇用継続の条件として要求すべきではない。雇用の開始に先だって実施される健康診断、定期健康診断など日常的な医学検査には、強制的なHIV検査が含まれるべきではない。 8.2. 保険のための検査の禁止 HIV 検査は、国の社会保障制度、一般保険契約、職域制度そして医療保険の加入条件として要求すべきではない。 保険会社は一定の職場への保険適用に合意する前に、HIV 検査を要求すべきでない。 保険会社は、入手可能な国民一般の疫学データに基づき収支試算及び保険数理計算することができる。 使用者は保険のためのいかなる検査についても便宜を図るべきではなく、既に持っているすべての情報は秘密を保持すべきである。 8.3. 疫学上の監視 職場における匿名で人への関連づけのない監視または疫学的なHIV検査は、科学調査の倫理原則、専門家の職業倫理、個人の権利保護と秘密保持を厳守するならば、実施できる。 このような調査が行われる場合、労使は協議を受けるとともに、実施中であることを通知されるべきである。得られた情報は個人や集団を差別するために利用してはならない。個人のHIV 感染状況が検査結果から推測できる合理的な可能性がある場合には、匿名の検査とは考えられない。 8.4. 自主的検査 自主的な検査プログラムの一環である場合を含め、労働者が自ら検査を希望する場合がある。自主的な検査は、通常、職場ではなく地域の医療機関によって実施されるべきである。適切な医療機関がある場合において、自主的な検査は、労働者の要求と書面によるインフォームド・コンセントに基づき、また要請があれば労働者代表による助言を得て、実施されるべきである。検査は、厳しい秘密保持と開示条件を厳守して、適切な資格を有する職員により実施される。HIV/エイズ検査の内容と目的、検査による利益と不利益、労働者に対する検査結果の影響に関する理解を助ける、ジェンダーに配慮した検査前後のカウ ンセリングは、いかなる検査の手続きにおいても不可欠である。 8.5. 業務における接触後の検査と治療 人の血液、体液、組織へ接触する危険がある場合、その職場は接触と労災事故への危機管理対策を持つべきである。 職場で、汚染している可能性のある物質(人の血液、体液、組織)に接触する危険にさらされた労働者に対しては、直ちにその事故へ対処できるよう医学的な影響、HIV/エイズ検査を受けることの望ましさ、接触後の予防法の利用について助言を与えるとともに、適切な医療機関を紹介すべきである。リスク評価の結果に基づき、労災補償の受給資格・手続を含め、労働者の法的権利について、さらに指導すべきである。 9.介護と援助 連帯・介護・援助は、職場におけるHIV/エイズ対策の指針として不可欠の要素である。自らのHIV感染状況について情報開示する労働者に対して開放・受容・援助を奨励する仕組みが作られるべきであり、彼らが差別待遇を受けたり、汚名を着せられることのないようにすべきである。職場におけるHIV/エイズの影響を緩和するために、職場はHIV/エイズの感染者・被害者である労働者へカウンセリングその他社会的援助を提供するようにすべきである。職場に医療機関がある場合には、適切な治療が提供されるべきである。このような機関がない場合、労働者は外部の医療機関の利用できるものについて情報提供されるべきである。このようなつながりは、労働者自身にとどまらず、その家族、特に彼らの子供まで及ぶ利点がある。政府、使用者、労働者とそれぞれの団体、その他関係者との協力により、効果的なサービスの提供と経費節減が確保される。 9.1. 他の重い病気と同等な取扱い HIV 感染及びエイズ症状は、職場で、他の重い病気や健康状態に比べて不利に取扱われるべきでない。 HIV/エイズに感染/罹患した労働者は、給付、労災補償、正当な就業調整について、他の重い病気の労働者に比べて不利な取扱いを受けるべきではない。 労働者は、健康状態が適切な雇用に適する限り、通常の雇用の安定と配置換え・昇進の機会を享受すべきである。 9.2. カウンセリング 使用者は、HIV/エイズに感染/罹患した労働者がカウンセリングを受けるために外部の専門的知識や援助を利用することを奨励し、あるいは職場に労働安全衛生担当部門等があって、それが専門的で秘密が保持される場合には、その利用を奨励すべきである。 これらが効果的に行われるよう、使用者は以下のようなことを考慮すべきである。 − HIV/エイズ関連のカウンセリングやHIV/エイズ治療を専門とする当該地域・地方の専門家、自助グループ及びサービス機関を把握する。 − 医療関係の地域団体及びそれ以外の地域団体でHIV/エイズに感染/罹患した労働者に役立つ可能性のあるものを把握する。 − まだ治療が行われていない場合には、労働者に対し最初の診療のために主治医または資格ある医療機関に相談するよう助言するとともに、労働者が資格ある医療機関を知らない場合にはこれを見つける手助けをする。 使用者は、HIV/エイズに感染/罹患した労働者に対し、国の最低基準に従い、カウンセリングと治療を受けるために適当な就業免除を認めるべきである。 カウンセリングの援助は労働者に無料で提供されるとともに女性と男性の異なるニーズや状況に合わせて調整されるべきである。そのような援助を確立・提供するうえで、適切な場合には政府、労働者・労働者団体、その他関係者と連絡すべきである。 労働者代表は、HIV/エイズに感染/罹患した労働者から求めがあった場合、彼らが専門的なカウンセリングを受けられるよう助けるべきである。 カウンセリング事業において、法定社会保障制度や職域制度における権利と給付、そしてHIV/エイズへの対処に役立つ生活指導プログラムに関する情報がすべての労働者に提供されるべきである。 HIV への接触が業務に関連して起こった場合には、使用者は労働者にカウンセリングを受けるために適当な有給休暇を与えるべきである。 9.3. 労働衛生その他保健サービス 使用者が、職員の抗レトロウィルス薬取得を手助けできる場合もある。職場に保健機関がある場合、保健機関は政府その他関係者と協力して、HIV/エイズを予防・管理するとともに、HIV/エイズに感染/罹患した労働者を支援できる可能な限り広範な保健サービスを提供すべきである。 このような保健サービスには、抗レトロウィルス薬の投与、HIV/エイズ症状の緩和、栄養相談・栄養補給、ストレス軽減及び性的感染症、結核など一般性の高い日和見感染症の治療が含まれる。 9.4. 自助グループ及び地域グループとの連携 適切な場合には、使用者、労働者団体及び労働衛生担当職員は、企業内における自助グループの設立や、HIV/エイズ被害者である労動者の自助グループ・地域援助団体への紹介について便宜を図るべきである。 9.5. 給付 政府は社会的パートナーと協議のうえ、国内法令に基づく給付のHIV/エイズに感染/罹患した労働者への適用が他の重い病気の労働者の場合に比べて不利にならないようにすべきである。政府はまたHIV/エイズの進行的、周期的性質に対処する新しい給付の持続可能性についても検討すべきである。 使用者・使用者団体及び労働者団体は政府とともに賃金助成制度を含む既存の給付制度の仕組みを、HIV/エイズに感染/罹患した労働者のニーズヘ適合させるように検討すべきである。 9.6. 社会保障の適用範囲 政府、使用者及び労働者団体は、HIV/エイズに感染/罹患した労働者とその家族が、社会保障制度や職域制度からの十分な保護と給付から除外されないことを保証するために必要なあらゆる措置を講ずべきである。これはHIV/エイズの危険があると考えられる職業・社会集団に属する労働者とその家族にも適用されるべきである。 これらの制度は、HIV/エイズに感染/罹患した労働者に対して、他の重い病気の労働者と同様の給付を提供すべきである。 9.7. プライバシーと秘密保持 政府、民間保険会社及び使用者は、カウンセリング・介護・治療・給付に関する情報が労働者の医療データと同様に秘密にされ、1985年の職業衛生機関勧告(ILO 第171号勧告)に適合する場合のみ開示されることを保証すべきである。 社会保障制度及び職域制度の受託者、管理者などの第三者は、労働者の個人情報保護に関するILO 実施規範に従い、労働者に関する医療データと同様に、HIV/エイズに関係するすべての情報の秘密を保持すべきである。 9.8. 職員・家族支援プログラム HIV/エイズの特徴に照らして、職員支援プログラムは、家族の一員である労働者のためのサービスが適切に含まれ、家族への援助が行われるよう整備拡大される必要があるかもしれない。これについては労働者・労働者代表と協議すべきである。それはまた政府その他関係者との協力によって、資源とニーズの範囲内で実現しうるものである。 このプログラムでは、エイズ関連の病気の人々への介護の大部分を女性が担っていることを認識すべきである。また妊娠している女性に特有のニーズも認識すべきである。このプログラムは、エイズによって親を失った子供のニーズに対処すべきである。このような子供たちはその後、学校をやめ、働くことを強制され、ますます性的搾取を受けやすくなるかもしれない。このプログラムは企業内で行うこともできるし、複数の企業が共同で援助することもできるし、あるいは独立した企業に外注することもできる。 家族支援プログラムには以下のことが含まれうる。 − 思いやり休暇 − 情報・教育プログラムへの招待 − 自助グループを含む援助グループヘの紹介 − 仕事が教育の妨げにならないという条件で、労働者の家族が労働者あるいはその家族に代わって雇用を得るための支援 − 学校教育、職業訓練、見習雇用のための援助など、エイズにより親を失った児童・青少年のニーズを満たす具体的な措置 − すべての関係者や、労働者の児童の通学する学校を含む地域団体との調整 − 直接的、間接的な資金援助 − 病気や扶養家族のニーズに関わる資金問題の処理 − 法律問題に関する情報・助言・援助 − 病気に関わる資金問題の処理、遺言・相続の準備など、病気と死亡に関わる法手続を理解させるための援助 − 家族が社会保障制度や職域制度を利用する際の支援 − 労働者に対する給与の先払い − 関係する法律・医療行政機関への家族の紹介あるいは役立つと考えられる行政機関リストの提供 付属資料T HIV/エイズとその影響に関する基礎知識 HIV/エイズに関する基礎知識 エイズ(AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、体液・とりわけ、血液・精液・膣の分泌液・母乳を通じて感染する。感染は、以下に掲げる4つの方法で生じることがこれまでに確認されている。 @ 感染しているパートナーとの保護されていない性交(最も多い。) A 血液・血液製品が原因となる場合で、感染している血液の輸血、及び感染している臓器や組織の移植、あるいは、汚染された注射器その他皮膚貫通器具の使用などによって生ずるもの B 子宮内あるいは出産時に感染している母親から子供へ感染する場合 C 授乳 HIV は、偶発的な物理的接触、咳、くしゃみ、キス、トイレや洗面所の共用、感染者から手渡された食器や、飲食物の摂取によって感染することはない。蚊やその他の昆虫に刺されることで広がることもない。 HIV は人体の免疫システムを弱くして、人体が感染と戦うことを困難にしている。感染後10年以上生き続け、しかもその間、ほとんど症状や疾病状態が現れないにも関わらず、他の人に感染する場合がある。エイズの初期症状には、次のようなものが含まれる。慢性的な疲労、下痢、発熱、記憶喪失、その他の精神的な変化、体重の減少、恒常的な咳き込み、重い再発性の発疹、ヘルペス、口内炎、リンパ節の腫れである。癌・髄膜炎・肺炎・結核といった日和見性の病気もまた、人体の弱くなった免疫システムに乗じることがある。 疾病期間中に緩和期間が散在していることがあっても、エイズは致命的な病気である。ワクチンについての研究が現在行われているが、まだ現実性のあるものはない。病気の進行を遅くし、延命させる抗レトロウイルス薬を利用できるが、これらの薬は非常に高価で、ほとんどの患者はこれを利用することができない。HIV は脆弱なウイルスで、限定された条件でのみ生存することが可能である。自然に湿潤している箇所でのみ人体に侵入することができ、損なわれていない皮膚を貫通することはできない。予防方法は、したがって、例えばコンドーム、(必要な場合には)手袋やマスクのようにウイルスに対して障壁となる ものを設けたり、皮膚貫通器具を汚染させないようにすることである。エイズウイルスは、漂白剤・強力な洗浄剤・熱湯で殺すことができる(付属資料U参照)。 人口及び労働力に与える影響 2000 年末の時点で、3600 万人を超える人々がHIV/エイズに感染/罹患しており、そのうちの3分の2がアフリカのサハラ以南地域で生活している。これまでにエイズが原因で、2200万人近くの人が死亡しており、2000 年には世界中で300万人が死亡している。 すべての地域が影響を受けている。すなわち、HIV/エイズに感染/罹患している成人と児童の数は、アジアで600 万人を超え、ラテンアメリカとカリブ海で200万人近く、北米で100万人を少し下回る程度、西ヨーロッパで50万人、東欧と中央アジアで75万人、北アフリカと中東で50 万人近くである。主な感染経路は異なるものの、地域の感染率は上昇している。 エイズによる死亡がアフリカの人口全体に与える結果は明白である。2010 年までに罹患率が2パーセントを超える29の国で、人口の合計が、エイズがない場合と比べると、5000万人少なくなるとされている。多くの国では女性が男性よりも若い年齢で感染しているために、性別や年齢別の人口構成に対しても影響が見られる。アフリカでは新たな感染の半数以上が女性である。最も影響を受けている年齢のグループは場所を問わず、15-49 歳という稼働人口で、したがって、これらの者が家族、社会、経済に果たしている貢献が失われることになる。ILO は、地球上で2000 万人の労働者がHIV/エイズに感染/罹患していると推計している。罹患率の高い国における労働力の規模は、2002年までに、エイズがなかった場合と比べると10〜30パーセント減少し、エイズによって親を失い、働かざるを得なくなる児童の数が増加すると考えられている。 HIV/エイズは、感染した個人とその家族、並びにコミュニティ全体に対して相当な影響を与えている。これが持つ意味は、感染した家族構成員の老齢あるいは若年の被扶養者にとっては深刻である。個人レベルや世帯レベルで見られる影響は、企業レベルに、そして次第に国内経済に反映されるようになる。この疫病は、さまざまな形で、働く世界に影響を与えている。すなわち、生産の中断、雇用における差別、ジェンダーによる不平等の悪化、児童労働の増加というものである。その他にも、人的資源の枯渇、保健や社会保障制度に対する圧力、労働安全衛生への脅威があげられる。 感染を助長する条件 全般的な要因 エイズは経済的・社会的・文化的権利が侵害されているところ、また市民社会の秩序や政治的秩序が無視されているところで蔓延している。経済的な面から見ると、貧困が主要な要因として焦点が当てられる。非識字者問題と社会から取り残された状態(マージナリゼーション)が貧困者を感染しやすい状態に置くことになる。貧困はまた、女性に対して安全でない性によりその家族を生存させ、支援するよう圧力をかける。不十分な食事、不適切な住居、及び衛生の欠如が、感染者をエイズ関連の病気にかかりやすくしている。社会的な面と文化的な面から見ると、人間関係や労働関係における不平等がリスクを伴った望まれない性をもたらしている。また、薬物の使用(とりわけ静脈注射によるもの)やアルコールの濫用がよく見られる状況において、HIV/エイズへの感染が加速されることが広く確認されている。HIV/エイズに感染/罹患した人々に汚名をきせることによって、当然に人々は感染について沈黙を望むようになり、これが蔓延を助長する結果となる。文化的な圧力と否認が、地域や国内における感染の規模を分からなくさせているために、地域社会及び個人への有効な対応策の計画をさらに困難にしている。 市民社会と政治の側面から見ると、紛争状態、法と秩序の瓦解、不十分な法制度と執行メカニズムが、結社の自由・団体交渉権の否定と相侯って、開発を全般的に妨げ、特に基礎的な保健制度を損なう結果をもたらしている。多くの国々では、既に負債と構造調整によって弱体化しているうえに、保健制度ヘの財源が乏しいことから、必要とされている治療や予防措置を提供することが不可能になっている。 要約すると、差別的な風土と、人権に対する尊重の欠落とが原因で、労働者は感染しやすくなり、また自主的な検査/カウンセンリング/治療/援助を求めることも困難でエイズに対処できにくくなる。社会への提言や予防のためのキャンペーンに参加することも難かしい。 特定のグループの労働者に対する感染のリスクを増大させる要因 特定の種類の労働状況は、主要な間題点が職業にあるのでなく、行動態様にあるにも関わらず、その他の労働状況に比べると感染のリスクを蒙りやすい。以下のものがそのリストである。 − 移動を伴う仕事、とりわけ、定期的に旅行し、配偶者やパートナーから離れて暮らさざるを得ない仕事 − 地理的に孤立した環境での仕事で、社会的な相互交流や保健施設が限定されているもの − 男性だけで働き、生活する仕事 − 労働者が感染に対する防護をできない状況 − 女性が少数であり、男性の数が優勢である仕事 − 普遍的予防策がとられておらず、かつ設備が不適切であるということの両方であるか、あるいはそのいずれか一方であるようなところにおける、刺し傷や感染した血液への接触といった職業上のリスクを伴う仕事 このリストに、次のような状況を網羅するために、「非労働」を加えることができる。すなわち、何らかの小規模な所得を手に入れようと考え、都市の中心部に集まってくる失業者は、HIV に感染しやすい状況にさらされている。また、強制追放者や難民キャンプの住民も、同様に職業に就いてなく、自暴自棄な感情に陥っているために、性に向かうか、あるいは性を強いられる。これは、とりわけこうした状態にある数多くのシングルマザーにおいて顕著である。 インフォーマル・セクター(注1)における特別なニーズ インフォーマル・セクターの労働者は、とりわけ、次のような理由からエイズのもたらす結果に苦しめられる。第一に職場の中に保健施設や社会的保護のための設備がない。二番目にこれらの労働者の活動が所得保障に支えられていたり、安定収入をもたらすことは稀である。三番目にこれらの労働が脆弱な性質をしているということは、欠勤があると取引や生産の手段を失う結果になりかねない。小規模事業やミクロ規模の事業では、1名かそれ以上の被用者を失うことが事業の倒壊につながるような大きな結果をもたらすことがある。所有者がHIV に感染し、発病し、死亡した場合、その事業の資本が治療・介護・葬儀のコストに流れることで、将来の再投資が台無しにされ、破産をもたらし、依存する被用者や家族のメンバーが後に残されたままになる。農村部のインフォーマル・セクターでは、介護の負担がしばしば労働力の農作業からの離脱をもたらす一方で、エイズによる労働力の損失が、食料生産の低下につながり、長期間にわたる食料保障の低下を引き起こすことになる。全般的に言って、消費者が死亡したり、治療や介護にかかるコストのために可処分所得が最低限に抑えられる場合に、市場は収縮するが、これによる経済の収縮スパイラルはとりわけインフォーマルセクターで強く現われる。 ジェンダーの側面 HIV/エイズは、男性と女性に対して異なった影響を与える。女性を男性より感染しやすくしている生物学的要因がある一方、女性に対して感染予防措置を困難にし、エイズの影響も強めている女性の地位の構造的な不平等がある。 − 数多くの女性が結婚・恋愛関係の中において性的かつ経済的に従属し、これにより、安全な性について交渉すること、あるいは安全でない性を拒むことができない。 − 職場における力の不均衡によって女性がセクシャル・ハラスメントにさらされる。 − 貧困は、エイズに冒されやすい要因として注目されているが、世界の貧困層の過半数を占めるのは女性である。貧困による危機においては、学校から連れ出されるか、あるいは強制労働や性的な労働へと売られるのは女児であることが多い。 − 予防のためのメッセージへの女性のアクセスは、世界規模で男性よりも女性に多い非識字者(国によっては女性が2倍多い)の存在によって妨げられている。 − 国内移住者の半分以上が女性によって占められており、また子供と合わせると女性は難民の4 分の3にあたる。こうした状況は両方ともHIV感染のリスクが平均よりも高いことに関係している。紛争状態にある場合には、交戦部隊による女性への組織的なレイプの発生が増加している。 − HIV に感染した家族やコミュニティの構成員の面倒を見る負担は、しばしば女性や女児にかかるために、これらの者の仕事量が増え、所得をもたらしたり学校へ通う可能性を低下させている。 − パートナーを失ったり、あるいはHIV 感染のために見捨てられた女性のHIV/エイズ感染/罹患者は、性差別的な財産法・相続法・保護法・扶養法により、財政的な保障や経済的な機会を奪われる結果となる。この結果、こうした女性達はさらに「生存のための性」を強いられる。とりわけ、女児が商業的な性的搾取の対象とされやすい。 − 調査によると、特に農村部においては、女性は男性に比べるとエイズに関連した社会的な汚名や追放を受ける可能性が高く、したがって、こうした女性は遠ざけられ不安定化されることが明らかになっている。これによってさらに性で生存することへの圧力を高めることになる。 − 女性が行う仕事は、有給のものであれ非公認なものであれ、エイズによって容易に中断されるものが多い。例えば、仕事が社会保障や職域医療給付制度の適用対象とされていないインフォーマルセクターでは女性が多数見られる。 − 男性に比べると女性は、社会保障や職域医療給付制度の適用対象とされている人数が少ない。 − 男性はしばしば、安全でない性または同意を得ない性へと導く男性的な行動態様の固定観念や社会規範の犠性となっている。 − 感染しやすい労働者という幾つかのカテゴリーの中に、男性の占める割合が過度に多いものがある。男性は雇用を通して男性間の安全でない性にさらされている。 − 男性と女性との間に広く見られるような力関係がある時には、男性は、HIV/エイズの予防と対処について責任ある行動をとり、これを奨励するのに重要な役割を担っている。 注1 1991年のILO総会に提出されたILO 事務局長報告によれば、「インフォーマル・セクター」という用語は、製品やサービスを生産し、流通させる非常に規模の小さい事業所群を指す。その多くは発展途上国の都市部における独立自営の生産者から成り、家族または数名の労働者/見習を使用している場合もある。事業資本は少ないか、全くないこともある。低い技術と技能を用いているので、生産性の水準も低い。一般的に収入は低く不定期であり、働くものにとっては極めて不安定な雇用である。公式統計には登記・登録されていないものが大部分であるという意味において、インフォーマルである。彼らは組織化された市場、金融機関、公的教育・訓練施設、その他多くの公的サービス・施設へのアクセスがないか、あっても限られている。彼らは政府によって認知されておらず、支援も規制もされない。多くの場合、法的枠組みの外での活動を余儀なくされており、登録されて法律の一部を尊重していても、ほとんど必ずといってよいほど社会保護、労働法規と職場における保護対策の適用範囲外にある。インフォーマル・セクターの生産者と労働者は一般的に組織化されておらず(特定の活動に従事する者のインフォーマルな地域団体は存在するかもしれない)、そしてほとんどの場合労働組合や使用者団体の活動が及ばない(ILO 第78回総会報告書T:インフォーマル・セクターのジレンマ、4 項(英語版)参照)。 付属資料U 職場における感染防止 A. 血液や体液に対する普遍的予防策 (「普遍的予防策」や「標準的予防策」という呼称で知られている。)血液や体液に対する普遍的予防策は本来、HIV/エイズが原因となって、血液で運ばれる感染から病院の職員を保護する新たな対策を立てる緊急な必要に迫られて、1985年に「米国疾病管理センター」(CDC)によって考案されたものである。新たなアプローチでは初めて、感染の可能性いかんに関わりなく、すべての人を対象に血液や体液についての普遍的予防策を適用を強調している。 普遍的予防策は、血液で運ばれる病原体のリスクを最低限に抑えるためにすべての患者のケアに際して常時用いられる簡単な感染防止基準である。普遍的予防策は、以下のことからなる。 − 先の鋭いもの(針やその他の先の鋭いもの)に対する注意深い取り扱いと処分 − 手続きの前後における手洗い − 手袋、手術着、マスクなど、血液その他体液への直接的な接触に対する障壁となる保護具の着用 − 体液や血液で汚れた廃棄物の安全な処分 − 器具やその他汚れた装備に対する適正な消毒 − 汚れたリネンに対する適正な取り扱い B. 感染防止に関する指針と普遍的予防策の参考例 Bednarsh, H.S.;Eklund, K.J.「感染防止;普遍的予防策の再考」、米国歯科衛生士協会:「アクセス」(シカゴ、1995 年)第11 巻第1号 疾病管理センター(CDC)/国立HIV,STD,TB 予防センター/HIV/AIDS予防部:ヘルスケア職員の業務上のHIV/エイズ感染に対する予防(1999年6月更新) 南アフリカ法律委員会:エイズに関連する法律の諸側面(プロジェクト第85号):職場における普遍的感染防止措置(普遍的予防策)(1997 年) WHO:職場におけるエイズと救急処置に関するWHO の指針、WHO AIDS 叢書7(ジュネーブ、1990 年)WHO/UNAIDS/ICN(国際看護婦協議会):HIVと職場と普遍的予防策、看護婦と助産婦を対象にしたHIV/AIDS に関するデータ表(ジュネーブ、2000年) 付属資料V HIV/エイズに関する職場指針の企画・実施のためのチェックリスト 使用者・使用者団体と労動者・労働者団体は、使用者と労働者のニーズに応じ、両者間のバランスのとれたHIV/エイズに関する指針を作成するにあたり、前向きで思いやりのある方法で協力すべきである。トップレベルの関与を背景にして、指針は、地域社会全体に対しHIV/エイズを管理する方法の例を提供する必要がある。この行動規範6-9 で展開されている主要部分には、以下のことが含まれている。 @ HIV/エイズに関する情報とこれの感染経路に関する情報 A 個人が負うリスクの理解を促し、これへの対処法を推奨する教育 B 行動の変化を促しそしてこれを支援する実用的な予防措置 C HIV/エイズに感染/罹患しているのが労働者であれ、その家族構成員であれ、被害を受けている労働者に対する介護や援助のための措置 D 職場においていかなる汚名をきせられることも差別を受けることも一切許容しないこと 指針やプログラムを作成するためのチェックリストとして、次のような手順をとることができるだろう。 経営の最高責任者、監督者、労働者、労働組合、人事部門、職業訓練部門、労務管理部門、労働衛生部門、安全衛生委員会、そして当人らの同意が得られた場合にはエイズ患者の各代表者で構成するHIV/エイズ委員会を設立する。 委員会は、所掌事項及び意思決定の権限・責任について決定する。 国内法とこれが当該企業に対して持つ意味を整理する。 委員会が、秘密を保護しつつ基礎調査を実施し、これによりHIV感染症の当該職場への影響とHIV/エイズの感染者・被害者である労働者のニーズを評価する。 委員会が、職場と地域社会で提供されている医療サービスや情報サービスを確認する。 委員会が指針の案を作成し、所見を求めるためにこれを回覧し、次に修正を加えて採択する。 委員会が、必要な場合は企業外からの資金も求めて予算を作成するとともに、地元のコミュニティに既にある財源その他資源を把握する。 委員会が、指針を履行するために、スケジュールと責任の所在を明らかにした行動計画を確定する。 掲示板、手紙、給与明細書への添付文書、特別会合、入社説明会、研修等を利用して、指針及び行動計画を広く宣伝する。 委員会が指針の影響を監視する。 委員会は、内部監視及び、HIV/エイズとその職場における影響に関する外部情報に照らし合わせて、指針を定期的に見直す。 上記の各手順は、継続的かつ進歩的に企画・実施・監視される、企業の総合的な指針に統合されるべきである。 付属資料W ILO 文書 A.決議、総会、諸会議、報告書 Hodges-Aeberhard, J.: Policy and legal issues relating to HIV/AIDS and the world of work (ILO, Geneva, 1999). -: An outline of recent developments concerning equality issues in employment for labour court judges and assessors (ILO, Geneva, 1997), see "Specific developments concerning HIV/AIDS discrimination", pp. 27-31. ILO: The role of the organized sector in reproductive health and AIDS prevention, Report of a tripartite workshop for Anglophone Africa held in Kampala, Uganda, 29 Nov.-1 Dec. 1994 (Geneva, 1995). -: Report of the Meeting of Experts on Workers' Health Surveillance, 2-9 Sep. 1997, doc. GB.270/6 (Geneva, 1998). -: Decent work, Report of the Director-General, International Labour Conference, 87th Session, Geneva, 1999. -: Action against HIV/AIDS in Africa: An initiative in the context of the world of work, based on the Proceedings of the African Regional Tripartite Workshop on Strategies to Tackle the Social and Labour Implications of HIV/AIDS, Windhoek, Namibia, 11-13 Oct. 1999 (Geneva, 1999). -: Resolution concerning HIV/AIDS and the world of work, International Labour Conference, 88th Session, Geneva, 2000. -: Special High-Level Meeting on HIV/AIDS and the World of Work, Summary of Proceedings of the Tripartite Technical Panel, Geneva, 8 June 2000. -: SIDA et milieu de travail: collecte de donnees au Togo (Lom*, Sep. 2000). -: The extent and impact of the HIV/AIDS pandemic and its implications for the world of work in Tanzania, Resource paper for ILO mission to the United Republic of Tanzania (Dar es Salaam, Sep. 2000). -: Conclusions and recommendations of the ILO pre-forum tripartite event on HIV/AIDS and the world of work, African Development Forum 2000, Addis Ababa, Dec. 2000. -: Platform for action on HIV/AIDS in the context of the world of work: Panel discussion, Report and conclusions of the Ninth African Regional Meeting (Abidjan, 8-11 Dec. 1999), Governing Body, 277th Session, Geneva, 2000. -: HIV/AIDS: A threat to decent work, productivity and development, Document for discussion at the Special High-Level Meeting on HIV/AIDS and the World of Work (Geneva, 2000). -: HIV/AIDS in Africa: The impact on the world of work (Geneva, 2000). ILO/Ministry of Labour and Youth Development, United Republic of Tanzania: Report for the national tripartite seminar for chief executives on strengthening workplace management in tackling employment implications of STI/HIV/AIDS (Dar es Salaam, 2000). N'Daba, L.; Hodges-Aeberhard, J.: HIV/AIDS and employment (ILO, Geneva, 1998). Report on OATUU/UNAIDS/ILO Seminar on Trade Union Action against HIV/AIDS in Africa, Accra, 26-28 July, 2000. B.関係するILO条約、勧告、行動規範、ガイドライン 差別(雇用と職業)条約、1958 年(第111号) 職業リハビリテーション及び雇用(障害者)条約、1983 年(第159号) 雇用終了条約、1982 年(第158号)及び同勧告(第166号) 団結権及び団体交渉権条約、1949年(第98号) 団体交渉条約、1981 年(第154号) 職業上の安全及び健康に関する条約、1981年(第155 号)及び同勧告(第164 号) 職業衛生機関条約、1985年(第161号)及び同勧告(第171号) 業務災害給付条約、1964年(第121号) 社会保障(最低基準)条約、1952年(第102 号) 看護職員条約、1977 年(第149号) 移民労働者条約(改正)、1949年(第97号) 移民労働者(補足規定)条約、1975 年(第143号) パートタイム労働条約、1994 年(第175号) 最悪の形態の児童労働条約、1999年(第182 号)及び同勧告(第190号) Management of alcohol and drug-related issues in the workplace: An ILO code of practice (Geneva, 1996). Protection of workers' personal data: An ILO code of practice (Geneva, 1997). ILO: Technical and ethical guidelines for workers' health surveillance, Occupational Safety and Health Series No. 72 (Geneva, 1998). Code of practice on managing disability in the workplace(準備中). 付属資料X HIV/エイズに関する国際・国レベルのガイドライン A.国際レベル Council of Europe, European Health Committee: Medical examinations preceding employment and/or private insurance: A proposal for European guidelines (Strasbourg, May 2000). Family Health International: Private sector AIDS policy, businesses managing HIV/AIDS: A guide for managers (Research Triangle Park, NC, 1999). Office of the High Commissioner for Human Rights (OHCHR)/UNAIDS: HIV/AIDS and human rights: International guidelines (New York and Geneva, 1998). Southern African Development Community (SADC): Code on HIV/AIDS and employment in the Southern African Development Community (Zambia, 1997). UNAIDS: Guidelines for studies of the social and economic impact of HIV/AIDS (Geneva, 2000). UNAIDS: AIDS and HIV infection, information for United Nations employees and their families (Geneva, 1999). UNAIDS/IPU (Inter-Parliamentary Union): Handbook for legislators on HIV/AIDS, law and human rights (Geneva, 1999), see "Annotated international guidelines". United Nations: Resolution 54/283 on the review of the problem of human immunodeficiency virus/acquired immunodeficiency syndrome in all its aspects, adopted by the General Assembly at its 54th Session, New York, 14 Sep. 2000. United Nations Commission on Human Rights: Discrimination against HIV-infected people or people with AIDS, Final report submitted by Mr. Varela Quiros (Geneva, 28 July 1992). WHO: Guidelines on AIDS and first aid in the workplace, WHO AIDS Series 7 (Geneva, 1990). WHO/ILO: Statement from the Consultation on AIDS and the workplace (Geneva, 27-29 June 1988). B.国レベル 政府 Centers for Disease Control and Prevention: "1999 USPHS/IDSA Guidelines for the prevention of opportunistic infections in persons infected with human immunodeficiency virus", in Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) (Atlanta), see Appendix: "Environmental and occupational exposures", 20 Aug. 1999, Vol. 48, No. RR-10, pp. 62-64. Citizens' Commission on AIDS: Responding to AIDS: Ten principles for the workplace (New York and Northern New Jersey, 1988). Minister of Public Service, Labour and Social Welfare, Zimbabwe: Labour relations (HIV and AIDS) regulations (Zimbabwe, 1998). Namibian Ministry of Labour: Guidelines for implementation of national code on HIV/AIDS in employment (Namibia, 1998), No. 78. Namibian Ministry of Labour: Code of good practice: Key aspects of HIV/AIDS and employment (Namibia, 2000), No. R. 1298. 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この文書はILO 本部が下記の書名のもとに刊行したものを、ILO 東京支局が翻訳・出版したものである。 |
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| 記 | |
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An ILO code of practice on HIV/AIDS and the world of work HIV/エイズと働く世界に関するILO行動規範 ILO 刊行物中の呼称は国際連合の慣行によるものであり、文中の紹介は、いかなる国、地域、領域、その当局者の法的状態、またはその境界の決定に関するILOのいかなる見解をも示すものではない。 署名のある論文、研究報告および寄稿文の見解に対する責任は原著者のみが負い、ILOによる刊行は、文中の見解に対するILOの支持を表すものではない。 企業名、商品名及び製造過程への言及はILO の支持を意味するものではなく、また、企業、商品または製造過程への言及がなされていないことはILO の不支持を表すものではない。 ILO刊行物は、主要な書店、ILO東京支局、スイスにあるILO本部の出版局にて販売しています。最新刊行物のカタログは無料で配布しているほか、ウェブサイトhttp://www.ilo.org/publns でもご覧になれます。 ご注文はE メール(tokyo@ilo.org)でも受け付けています。 |
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