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タイの福祉施設で希望取り戻す 人身売買から救出の女性たち 近隣国含め被害者は毎年数万人 再発防止と予防が不可欠 |
タイでは毎年数万人の女性たちが人身売買の被害者となり、商品として過酷な労働条件の中に放り込まれている。首都バンコク郊外のある社会福祉施設では、被害者となった若い女性を保護して心身のリハビリを行うだけでなく、故郷に戻って新しい生活を始めることができるように、女性たちに職業教育を施している。被害の再発防止と予防に力を入れる同校では、近くの学校で入所者の体験を聞く会を開催する一方、近隣国にも施設の充実を働きかけている。女性に自活する自信と能力をつけてもらい、人身売買の被害者を減らそうという意欲的な「学校」の活動を報告する。 【タイ・クレット島IPS(チャヤニット・プーンヤラット記者)】 バンコク北部のクレット島のある学校を訪れた。少女と女性たち約250人が英語や職業訓練の授業に出席して忙しい毎日を過ごしている。ここで学ぶ者たちは、一度は失った将来への希望を取り戻し、新しい生活を送る準備をしている。 バンコクから20kmほど北上したノンタブリ県にあるこの学校は「バーン・クレットトラカーン」(クレット島の美しい家)と呼ばれ、一般向けの学校ではない。ここは東南アジア各地からタイに売られてきた少女や女性たちを保護し、職業訓練を施す社会福祉センターだ。 創立42年を迎えた同校は、性的虐待と性的搾取の被害を受けたタイ人女性のために、労働・社会福祉省が運営する社会復帰支援施設で、1999年からは近隣のビルマ、ベトナム、ラオス、中国雲南省からタイに売られ、物乞いや低賃金労働、性労働に従事させられた若い女性たちも受け入れている。 ▽長時間労働で賃金は未払い 「ここが気に入っているわ。たくさん勉強できるしね」。入所7カ月目のビルマ人女性ダラさん(仮名、22)はこう話す。ダラさんはつい1年前まで、バンコク郊外のボールペン製造工場で、毎日14時間、休みなし、給料なしで働かされていたという。 ダラさんは「バンコクに出て働くことを選んだのは自分の意思だったのよ。ブローカーは良い稼ぎになると言っていたからね」と語る。家族はブローカーに、バンコクでの仕事のあっせん料として1万チャット(実勢で約1400円)を払った。 ダラさんは友人たちと一緒に、タイ北部チェンライ県メーサイ経由でビルマから売られてきたという。タイに売られるビルマ人の大半が、バンコクの北830kmにあるこの国境の町からタイに入国している。 ▽物乞いのために7歳でタイへ ナームさん(仮名、13)は7歳のときに、ベトナムのハノイにある実家から、タイ国境に近いカンボジア北西部ポイペトに入り、そこからバンコク南東147kmにある有名なビーチ・リゾートのパタヤに連れて来られた。 ナームさんは「パタヤではチューインガム売りをしていたところを警察に捕まりました。お母さんにはそれから一度も会っていません」と補導されたときのことを思い出す。 「物乞いを生計の手段にしているカンボジア人家庭も結構あります。このセンターの中で一番幼いのはカンボジア人の少女たちで、5歳の子どもから預かっています」と、ソーシャルワーカーのモンティプ・キジンソポーンさんは説明する。 国際労働機関(ILO)の「児童労働撲滅のための国際プログラム」(ILO−IPEC)は、タイ国内ではカンボジア人の子ども500〜1,000人が物乞いとして働いていると推計する。 モンティプさんは「カンボジアから来た少女たちの中には一度故郷に帰っても、再び施設にやってくる子もいます」と付け加える。 ▽心身両面のケアが必要 センターで暮らす女性たちの多くがダラさんやナームさんと同じような体験をしている。警察が不法な施設に踏み込んだ際に、暴力の被害や搾取から救出され、それがきっかけで入所する女性が多い。 助けを求めてセンターにやってくる女性たちもいる。厳しい生活条件から逃れてくる場合がほとんどだ。ここで教える教師たちによれば、入所しているタイ人の少女の中には親から預けられた子どももいる。理由はさまざまだが、子どもが性的に搾取されてしまうのではと両親が警戒してのことだ。 人身売買の被害に遭った少女たちは、身体的な暴力を振るわれ、性暴力の被害者であるケースが多い。奴隷のような状態に置かれることもしばしばで、そうした経験によって心身に傷を負っている。少女たちが社会に適応し、社会に再び戻っていくのを助けるためには、心理カウンセリングと職業訓練が必要となる。 ▽人身売買の状況は悪化 「去年に比べて、新たに入所した女性の数は減っていますが、人身売買と搾取の状況はさらに悪化しています」とモンティプさんは指摘する。また、女性の人身売買が増加する背景には貧困拡大と識字率の低下があるため、被害を受けた女性たちの救出は難しさを増していると話す。 生まれ育った農村では仕事が見つかる望みはない。バンコクのような大都会で働き、希望のない村の生活から抜け出そうと考える少女は後を絶たない。しかし、それは人身売買業者の思う壺で、自らを危険にさらすことになる。 タイでは毎年数万人の女性が売り買いされ、出入国している。タイは東南アジア各地から移民労働者と人身売買の被害者が絶え間なくやって来る受け入れ国の一つとなった。 ▽人身売買は基本的人権の侵害 ILO−IPECの推計によれば、1990年以降に8万人の女性と子どもが性産業に従事するためにタイに売られている。出身国別で見ると、最も多いのがビルマ、次に中国雲南省、ラオスと続く。 国連婦人開発基金(UNIFEM)のジェーン・ドクンハ氏は「すべての人は人間として尊重される権利を持っています。人身売買は道徳意識の問題ではなく、人間としての権利にかかわる問題なのです」と語る。 しかし現在、問題解決策をめぐる誤解が生じているという。「人身売買の予防や女性の能力向上を図る代わりに、女性の行動を制限しようとする政府が多いのです」とドクンハ氏は指摘する。 ▽辛い体験語る少女たち このセンターが少女たちに提供するのは衣食住だけではない。法的支援のほか、美容師技術、裁縫指導、伝統的マッサージなどの職業訓練、それに英語とパソコンの授業も行っている。 センターは近くの学校とも密接に連携し、児童・生徒に人身売買と搾取の危険性を伝える授業を行っている。モンティプ氏の説明によれば、センターの少女たちは自分の体験を子どもたちに直接語っている。 施設の担当者は訓練を終え、施設を出た子どもたちの動向をつかみ、社会復帰状況を観察するため、メコン河流域諸国のNGOと協力している。子どもたちが出身国に戻ってからも、3カ月、半年、1年後と追跡調査を行い、需要と搾取の悪循環に再び取り込まれないようにしている。 モンティプ氏は「周りの国に働き掛け、ここのような学校を作るよう説得している最中です。もっと多くの少女や女性たちを人身売買の手から遠ざけ、救い出すことができるからです」と語る。 ▽訓練後、祖国に戻る少女たち センターで過ごした8カ月の間に美容師の訓練を受けたナームさんは、母親が住むポイペトに戻るのを楽しみしている。「またお母さんに会えるのよ。本当にうれしいわ」とナームさん。 ダラさんは、勤めていた工場での未払い賃金1万431バーツ(約3万1千円)を、センターの力を借りてやっと受け取ることができた。今、帰国の準備中だ。 ダラさんは「(今年5月から閉鎖されたままの)タイ・ビルマ国境の再開待ちよ。実家に戻るところなのにね」と言い、「縫製のクラスで勉強した技術があるから食べていけると思う。それに母に縫製を教えることもできるわね」と将来の計画を語る。 そしてダラさんは「このセンターは大好きよ。でもね、ここに二度と戻りたくはないわ」と付け加えた。 【メモ】タイの人身売買 タイは人身売買の送出国、受入国、経由国すべての役割を果たしている。近年は国内の農村部から都市部へ売られる女性や子どもの人数は減少したが、国外からの労働力移動がそれを補う形で増加している。政府は女性と子どもの人身売買を禁止する法律を1997年に制定し、NGOや国際機関との協力に乗り出すなど、人身売買対策に本格的に乗り出し始めたところで、捜査や訴追の件数はまだ少ない。一方、現場レベルでは警察官と業者の深刻な癒着が取りざたされている。NGOや政府によれば、18歳以下の子どもや外国人を含めた売春に携わる女性と子どもの総数は最低20万人と推計される。人身売買の被害者のうち性産業以外で働く人の数は不明だが、相当な被害者がいるとみられている。 |
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