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【タイ】無視される男性性産業労働者
浸透しないセーフ・セックス
偏見と無関心が対策を阻む

増加する労働者と女性客
  タイの性産業では数万人の男性が働いているが、女性に比べて社会的な関心を集める機会も少なく、HIV/エイズ対策も遅れている。このためセーフ・セックスやエイズ、性感染症についての知識が、業界で働く男性と客の双方に十分に浸透しているとは言えない状態だ。バンコクで働く18歳の性労働者の話を聞いた。

【バンコクIPS(チャヤニット・プンヤラット記者)】男性の性労働者として働くボンさん(18)には、生活費を賄う以上の稼ぎがある。だが、将来は別の仕事に就きたいと考えている。
 「この仕事に特別な資格はいらないが、相当な稼ぎになる」と話すボンさんだが、バンコクで性労働者として働くのは3年で終わりにし、別の目標に向かいたいという。今は一晩に客を3〜4人取る生活だ。
 実家は首都バンコクから北東82kmのチャチューンサオ県で「もう少しで両親に家を建ててやるだけのお金が貯まる」という。
 家出したボンさんは、ウエーターとして月給1500バーツ(4500円)で働いたが、家賃と雑費を払うと手元にはほとんど残らなかった。
 「それから友人のつてでこの仕事を知った。最初はちょっと怖かったけど、失うものは何もないからね」と話す。
 しかし実際には失うものがあることは分かっている。「仕事中にはいつも怖いことだらけだ。わざわざ言いたくもないよ。楽しいことなんて一つもない。他にこれといった選択肢がないからやっているだけ」なのが本音だという。

▽浸透しないコンドーム使用
 ボンさんは、性産業で働いていれば、性感染症(STD)からHIV感染に至る、健康やその他の面でのリスクを抱えることは知っている。
 HIV/エイズと性感染症については聞いたことがあるとした上で、「病気が怖いからセックスのときは必ずコンドームを使い」、3カ月毎に検診を受けるという。
 「もし客がコンドームを嫌がれば、その客とは寝ないことにしている。客の金で人生を買い戻すことはできない」と話す。
 しかし、できるならコンドームを使いたくないという客の方が多数派だという。ボンさんの客の大半は「カトゥーイ」(男性の同性愛者を指すタイ語)だ。「コンドームを着けると気持ち良くない、としょっちゅう言われる。コンドームを使ったり使わなかったりという仲間も多い」とボンさん。
 確かに数字を見れば男性の性労働者のHIV感染率は相対的に低く、HIV/エイズに関するキャンペーン活動が成功を収め、安全な性行動が広まっている。 だが「エイズ感染防止共済会」(FACT)のディレクター、ナティー・ティーラロッチャナーポンさんのような活動家は、コンドームを使わないような性行動を警戒している。FACTは男性の性労働者と関わる活動を1986年から行うNGOだ。

 タイ保健省疾病管理局エイズ課によれば、HIVに感染する性労働者の割合は男性が9.6%、女性が16.2%である。
 活動家によれば、FACTらによる男性の性労働者向けコンドーム使用キャンペーンとHIV/エイズに関するプログラムは一定の成果を収めたが、依然としてエイズのことを知らず、警戒もしていない層もあり、安心はできない。

▽低い社会や活動家の関心
 ナティーさんはまた、男性の性労働者には固有なHIV感染のしやすさがあるが、社会の側だけでなく一部の活動家さえも、このことに十分な注意を払っていないという。女性の性労働者と男性の性労働者に関わる団体の数の差に、それが現れていると指摘する。
 また「男性の性労働者が関係する問題を社会の側は無視し続けている。男性の性労働者にはあまり同情が集まらない。男性が性産業で働くときには『失うものは何もない』と考えられているためだ」と話す。
 性労働者に関わるタイのNGO「エンパワー」のディレクター、チャンタウィパー・アピスックさんも同じ意見だ。「タイ社会は男性は女性よりも選択肢が多いと考えている。女性の性労働者は人身売買や強制売春の被害者と見なされやすいが、男性は自ら進んで性産業に入ったと考えられている」と話す。
 だが、こうした世間の認識は誤りだとチャンタウィパーさんは主張する。「エンパワー」は、男性でも女性でも、人身売買や犯罪行為によって性労働を強制される性労働者がすべてだとは言えないし、自分自身で性産業を選ぶ場合もあると理解していると話す。
 選択というのは微妙な問題だ。金銭的な問題やその他の要因によって生計を立てる手段は自ずと限定されることを考えれば、それほど選択の余地は広くないとみる活動家もいる。

▽急増する男性の性労働者
 チュラロンコーン大学のニテート・ティンナクンさんが最近行った調査によれば、過去3年間で男性の性労働者の数は3倍以上になり、2002年には3万人を超えた。
 これには2つの要因があるとニテートさんは見る。一つは97年の経済危機の影響、もう一つは女性客の増加だ。性労働者を買う夫の性行動を真似することで、妻が夫に借りを返すという風潮が強まっている。
 調査結果によれば、男性の性労働者のほとんどが首都バンコクや、タイ北部のチェンマイ、南部のプーケットなど大都市で働いている。最年少は12歳だった。外国人とタイ人女性の相手をするのは18歳から35歳と年齢の高い層で、それより若い層は売春目的でタイに来る外国人のゲイ男性の相手をすることがほとんどだ。
 男性の性労働者の出身階層は大卒者、事務労働者、学生、ストリート・チルドレンなど多岐にわたる。客層も地元のタイ人、外国人、ゲイ男性、トランスセクシュアル、バイセクシュアル男性、女性など様々だ。
 ボンさんは周りの年齢は17歳から27歳だという。また「高校や大学の女学生の客もいる。制服のままで来るから分かる」とし、最近女性客が増えていると付け加えた。
 ボンさんの将来の展望は、まず1年ほどこの仕事をして実家に戻り、両親に家を建ててやることだという。
 「バンコクに戻ってくるかもしれないけど、そのときは別の仕事をする。もしこの仕事で戻ってくるとしたら、それ以外に職がないときだけだね」と語った。

【メモ】タイのエイズ 国連エイズ合同計画(UNAIDS)によれば、タイのHIV/エイズ患者・感染者は推計67万人で成人人口の1.8%を占める。男女比は2対1。2001年の死者は5万5000人。(ベリタ通信)