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タイ:開放的な性教育で大きな成果 性体験の低年齢化に対応 女性教師が生徒の目線で授業 性タブー視のタイ社会に新風 |
| タイでは10代の若者の性行動が変化し、性体験の低年齢化が進んでいる。しかし、セックスの話をタブーとする雰囲気がタイ社会で強い中、ほとんどの学校では旧態依然とした性教育が行われており、政府の対応も不十分だ。HIVや性感染症、避妊について正しい知識を持つことは生徒自身の身を守ることにつながるが、そうした観点からの取り組みはいまだに激しい逆風にさらされることが多い。生徒にとって役に立つ性教育とはどのようなものなのか。バンコクの高校でのユニークな実践を通して、タイの性教育の現状を紹介する。
【バンコクIPS(チャヤニット・ポーニャラット記者)】バンコクの名門男子校スアン・クラープ高校での授業風景だ。ナコーン・サニヨティンさんは生徒の前でコンドームのパッケージを取り出し封を切り、ペニスの模型を使って装着方法を説明する。時には女性用コンドームや家庭用妊娠検査薬の使用方法も解説する。 ナコーンさんはくだけた言葉や身近な言い回しを使った型破りな性教育を23年間続け、800人以上の生徒の心をつかんでいる。 ▽生徒に身近な性教育 ナコーンさんの目には、セックスの話がタブーとされるタイのような国では、当たり障りのない、医学・科学用語を使った昔風の性教育は若者に訴える力を持っていないと映る。 「子どもたちにセックスが普通のことだと感じてもらう必要があります。お腹が空いたら食事をするようなものです。そうすれば安心して性の悩みを相談してくるようになるのです」と語る。ナコーンさんの担当は11年生で、大多数が17歳前後だ。 ナコーンさんは「生徒と同じ言葉を使い、偏見にとらわれない」ことを勧める。セックスのことを語るのに正解も間違いもない。非常に個人的なものであっても、出された質問にはすべて答える必要があるとナコーンさんは強調する。 授業を進める際の要点は、最近の若者の間にはセックスの低年齢化が進んでおり、性と生殖に関する保健について正しい知識が必要だと認識していることだ。ナコーンさんは生徒にHIV/エイズやその他の性感染症の予防策を教えている。 しかし、この最新の教育法を初めて導入したとき、生徒が好奇心からセックスに走るのではないかと、教師と保護者から不安の声が上がった。 あるタイのマスコミのHPには「子どもに性教育は必要ない。性道徳や倫理を教えるべきだ」との意見が投稿されていた。 だが性の問題を理解していない状態の方が危険であり、望まない妊娠や中絶を行い、性感染症にかかる可能性が高くなる、とナコーンさんは考えている。 「両親は性の話を『いやらしい』と考えているから、家の中では話ができない」というアヌーソン・サアートイアムさん(18)は、同世代の多くの若者の気持ちを代弁している。 ▽性教育に及び腰な文部省 タイ文部省は2年前に方針を転換し、全国の学校に開放的で包括的な性教育を行うよう通達を出した。しかし、指導手引書は配布せず、カリキュラムについては学校任せにした。 その結果、今では「性教育をいまだ無味乾燥な科学用語で行う学校がほとんどだ。それでは生徒にセックスへの好奇心をかきたてるだけ」と、米国のNPO「適正保健技術計画」(PATH)の職員ウサシネー・レウトンさんは話す。 そして10代の若者にはコンドームの使用方法が浸透しておらず、政府の教育改革はこの問題の改善に失敗していると指摘する。 タイ最大の日刊紙タイ・ラットが2年前に行った調査によれば、タイの若者の初体験平均年齢は14〜18歳で、13歳と答えた子どももいた。 コンドーム会社デュレックス社の99年の世界調査では、対象となった16〜22歳のタイ人の88%がHIV感染を恐れていたが、コンドーム使用者はわずか23%だった。 現在、最も大きな危険にさらされているのは若者だ。無知とセックスの結び付きは厄介で、時には死をもたらしさえする。 保健省の統計によれば、昨年、15〜24歳の死亡原因の第2位はHIV/エイズだった。また毎年300〜350人の乳児が、望まない妊娠によって生まれ、捨てられている。非政府組織(NGO)側は学校の性教育カリキュラムから抜けた部分を補うため独自の手引書を作成、配布しようとしてきたが、反対にぶつかっている。 論争は今年初めにも起きた。NGO「サイアム・ケア・オーガニゼーション」は12歳以上を対象に「10代の若者へのハンドブック」を発行した。しかし、文部省はこの本の配布を禁止した。セーフ・セックス、受胎調整、生理、マスターベーションといった「不適切」な言葉が使われているというのがその理由だった。 ▽正確な知識の伝達が重要 PATHでは生徒だけでなく高校の性教育担当者も対象にしたプロジェクトを行っている。生徒が性に関する問題を率直に話せるようになることを目的とするプロジェクトでは、参加者の間で望まない妊娠の件数が減少しているとウサシネーさんは話す。 生徒の一人は「ご飯を食べて満腹になった時のようなものです。一度すべてを知ってしまえば、他のところに出向いて探したり、試したりしなくてもいいのです。性教育によって考えさせられたのは、セックスをするかどうかは簡単には決められないということです。そこから様々な問題が出てくる可能性があるからです」と話す。 WHOは93年に35の性教育プロジェクトを調査し、学校での性教育は若者の初体験年齢の低下や、回数の増加にはつながらないとの結論を出している。 むしろ、若い学年で性教育を始めた方が性行為の開始時期は遅くなり、頻度も減る。すでに性行為を行っている若者がセーフ・セックスをする機会にもなるとの調査結果が出ている。 「セックスをするなとは絶対に言いません。性教育とは本来、性関係を禁止することではありません。子どもたちに性に関する包括的な知識を与えること、より多くの選択肢を与えることなのです」とナコーンさんは強調する。 つまり、若者たちが指摘するように、必要なのは効果的に伝達された正しい情報だ。アヌーソンさんは「セックスが隠されるほど、私たち(若者)はそれを知りたいと思うようになるのです」と話している。 【メモ】タイのエイズと若者 国連エイズ合同計画(UNAIDS)によれば、タイのHIV/エイズ患者・感染者は推計67万人で成人人口の1.8%を占める。男女比は2対1。2001年の死者は5万5000人。過去に報告されたタイの15〜19歳のエイズ患者・感染者は全体の1%だが、20歳〜29歳は38.6%を占めている。 |