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人口政策で米政府に痛い黒星
夫の死で一家の生活が暗転
不備な検査体制も窮状に拍車

支援に乗り出す地元組織
掲載日:2003年3月6日
 HIV/エイズの感染が拡大すると、一家の大黒柱である父親を失う家庭も増加する。こうした家庭は金銭上の問題だけでなく、エイズ患者の家庭として社会的な差別にも直面することになる。インドでは官製のエイズ対策が、不正確な検査法にもかかわらず検査受診を奨励し、啓蒙活動に重点を置いているが、「エイズ未亡人」とその家族は政策の対象から外れ、何重もの困難を背負って生活している。こうした人々を支える地域の試みを北部パンジャブ州から伝える。

 【インド北部バティンダIPS(プラン・シン記者)】マンプレートさん(28)はどん底に突き落とされた気がした。トラック運転手の夫がおそらくエイズで他界して間もない2002年4月に、4人の娘のうち3人と自分がHIV検査で陽性と診断されたときのことだった。

▽エイズ差別に苦しむ未亡人

 「2001年に死んだ夫ラジュは多分エイズでした。こんなにつらい形見を遺すとは思ってもみませんでした。絶望的です」と話すマンプレートさんは今、義父に追い出され、娘と共に実父の窮屈な家に身を寄せている。

 一家はパンジャブ州西部ランプラプールから50キロ北の小さな町ファリドコトに住み、現地の医科大学で検査を受けた。

 教育当局は、検査結果が噂で広まった直後、年長の娘カランジェートちゃん(10)とラクビルちゃん(7)を、他の児童の健康を脅かすとして退学処分にした。

 昨年6月には生後4カ月の末娘グルプレートちゃんを失った一家に、義父は家から出るよう迫った。この事件は、女性の社会的な苦しみがエイズ差別によって一層強められるさまを浮き彫りにするものだ。

 一家は、義父の代理という人々にエイズ検査を強制されたという。義父は未亡人と子どもたちの面倒は見ないと公言している。

▽遺族支援に動く地元組織

 タブー視される性と結び付けられるエイズには差別や恥の意識が付きまとうにもかかわらず、マンプリートさんは町の「ランプラプール・モハラ(現地)開発委員会」から思いがけない支援を得ることになった。

 マンヌ委員長は「罪のないマンプリートさん一家を絶対に孤立させない」と断言する。

 パンジャブ州ではシーク教徒が多数派で、マンヌさんも信者の一人だ。氏はバティンダ郡当局の対応に「冷淡さを通り越し、敵意がある」と憤慨する。

 「この一家のような人々への救済策がない中で、派手なエイズ対策の啓発用ポスターを作り、講演会を開いても何の意味もない。なぜ当局は一家に検査を受けさせ、野垂れ死なせようとしたのか」と行政の責任を追及する。

 マンヌさんと委員会はHIV/エイズに関する法と権利の問題を扱う「共同行動評議会」(JAC、本部ニューデリー)に支援を求め、貧困にあえぐ一家に司法救済の道を探ろうとしている。

 評議会のムロリ代表は「この事件は決して珍しくない。私たちが10年近く言い続けていることの確かな裏付けだ。二国間または多国間の枠組で、また民間援助機関によって全国に莫大な資金が投入されているが、現地で恐怖と混乱を生じさせているだけだ」と話す。

 氏は「誤った」キャンペーンにより、トラック運転手や性労働者など「ハイ・リスク集団」への排斥が強まっているとし、「こうした現状は、各地で報告されるHIV感染者への迫害事件に見られる深刻な社会不安につながる可能性がある」と警告する。

▽エイズ恐怖と不正確な検査

 パンジャブ、ハリヤナ両州は農業が盛んだが、トラック運転手や兵士の一大供給地でもある。両州は若者にHIV検査受診を促す半強制的なキャンペーンを準備中だが、陽性の際の対応策は一切不明だ。

 パンジャブ州中部ルディアナ郡マンケ村の村長は、HIV検査から生じた大きな権力と権威を振りかざし、「受診前の新郎新婦には結婚の祝福はしない」と宣言する。

 この村長の独裁ぶりにあえて疑問を投げかける人はいない。年長者を敬う伝統の他に、マンケ村と隣のダイベー村で多くの人が亡くなっているのは、真偽は別として、エイズが原因だとされているからだ。

 両村出身の若い男性の多くは運転手になるが、長時間ハンドルを握る仕事のわりに稼ぎは信じられないほど低い。シン村長はこうした若者の多くにHIV感染の可能性があるというが、検査は非常に不正確だ。

 州北西部アムリツァルに住むグリンデール・シンさんは、一回目の検査で陽性と診断され激しく落ち込んだが、医師の友人の勧めで「ニューデリーの全インド医大で精度の高い検査を受けると陰性だった」と話す。

 シンさんは保健省の国家エイズ抑制機構(NACO)に、不必要な精神的ショックと社会からの迫害を防ぐため、信頼に足る検査法が開発されるまで、強圧的な受診推進策を凍結するよう請願した。

▽遺族に無関心なエイズ対策

 NACOの推進策の中心は、コンドームと資料の無料配布、補助金付きのHIV検査だ。

 トラック運転手などのグループが対象にされているのは、数千キロを数週間掛けて移動する道中で、最も安く食事とセックスにありつける場所に通じた人々だと思われているからだ。

 だが、NACOは世界銀行からだけで年6千万ドル(72億円)の予算を調達しながら、運転手の未亡人や扶養家族には資金を一切振り分けていない。

 マンプレートさん母娘は、マンヌさんと地域委員会の支援を受け、バティンダ郡役場で座り込みを行ったが、当局がマンプレートさんにしぶしぶ渡したのは50セント(60円)もしない毛布2枚だけだった。

 当局は夫を亡くした妻の窮状には無関心だ。このため福祉を担う村落評議会は事態に当惑しながらも、資金に恵まれてはいるが、思いやりに欠けたNACOのキャンペーンの後始末をさせられている。

▽村全体も迫害の対象に

 マンプレートさんとそっくりの事例がある。5年前、ハリヤナ州ロータク市の国立医大でHIV陽性と診断されたカウシャリャさんと娘の出来事だ。トラック運転手の夫ランビールさんの死因がエイズと疑われたため、カウシャリャさんも複数の検査を受診させられ、陽性と診断された。

 「当時妊娠中の男の子は同病院の医師に中絶させられた。だが2000年に受診した2回目の検査では、私も娘もHIV陽性ではなかった」とカウシャリャさんは話す。

 「私は息子を失い、家族も村全体も排除された。何年もの間、村の者はだれ一人として結婚も就職もできなかった」というカウシャリャさんには、幸運なことに義父とともに、アザド・シン村長率いるチョチ村評議会が強い味方となった。

 村長は「向こうは検査を受診するよう脅迫したのです。郡長自らこの村を訪れ、受診しなければ全員死ぬと言ってきました。都会に住む権力者が私たちにとんでもないでたらめを信じさせようとしているのです」と話している。

【メモ】インドのエイズ 国連エイズ合同計画によれば、インドのHIV感染者数は2001年末で推定397万人、南アフリカに次ぎ世界第2位。全国的に見れば成人の4分の3がコンドームによるHIV予防法を心得ているが、地方の住民や女性の間での認知率ははるかに低い。

 
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