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フィリピン:女性同性愛者向けエイズ対策を
感染リスクで危険な思い込み
社会と医療関係者の差別が壁に

正しい知識・情報の充実も急務
 女性同性愛者向けのHIV/エイズ対策は、男性同性愛者や異性愛者に比べればないも同然だ。レズビアンの側に感染しないという思い込みがある一方、社会の側の差別や嫌悪感が根強いからだ。またセーフ・セックスや感染症の知識が不十分だとの指摘もある。教育キャンペーンや、若年層への取り組みなどを、10月に開かれた「第6回フィリピン全国エイズ会議」の討議内容からレズビアンに焦点を当てて紹介する。

 【マニラIPS(マリテス・シソン記者)】フィリピンでは、自分たちはHIVに感染しないと誤解する女性同性愛者が多い。現地活動家はレズビアン向けのHIV/エイズに関する知識普及キャンペーンと医療プログラムの整備が急務だと話す。
 「低リスクでもリスクは存在する。ご承知とは思うが、感染爆発の引き金を引くのは私たちかもしれない」と「レズビアン擁護運動」(LEAP)のマリア・クリスティーナ・クリストバル代表は訴える。
 またバイセクシュアル女性や、HIV感染者の異性愛男性と性交経験のある女性とのセックスには、HIVや性感染症(STD)の感染リスクがあるが、これを理解していない人が大半だと指摘する。医療専門家によれば、ウイルス感染の主要経路は性器部分の腫瘍や裂傷だが、オーラル・セックスでも感染の可能性はある。

▽感染しないという根強い誤解
 クリストバル氏は、LEAPがレズビアンの50人を対象に行った調査の結果を紹介し、全員がセーフ・セックス(感染リスクの低いセックス方法)を、ごくわずかな要因、即ち適正な衛生状態、相手を一人にすること、器具を使わないこと、手袋の使用―などと結び付けていたと報告した。
 フィリピン国内ではレズビアンのHIV感染例が報告されていない。このことが「レズビアンのセックスはセーフ・セックス」、また、冗談交じりによく言われる「私たちは神の子」という考え方が広がる一因となっていると付け加えた。先進国ではレズビアンのエイズ患者が報告されているが、フィリピンのレズビアンは生活スタイルが原因と考えており、生物学上のリスクや感染の可能性を軽視している。

▽差別が引き起こす医者離れ
 レズビアンは別の面でも問題を抱えている。医者や医療従事者からの差別に苦しんでいるため、大半が自分たちの日常的なセックスに関する問題について語りたがらない。クリストバル氏は「よくセックスすると医者に言えば、すぐに薬の種類を聞かれる。相手は男性だと思い込んでいるからだ。自分はレズビアンだと打ち明けると、否定的な反応が返ってくる。冷やかすか、よそよそしくなるかのどちらか」と語る。
 また、こうした社会的環境から、レズビアンの中には医者に行かなかったり、自らレズビアンだと打ち明けない者が多い。LEAPの調査対象者50人のうちでパップ・スメア(子宮膣部細胞診)の受診者は6人だけだった。
 アーチー・ロゴ教授は、人口の大半が保守的なカトリック教徒であるフィリピンのような国では、レズビアンであることが問題視されるとし、「社会に広がるこの狭量さは説明するまでもない」と話す。

▽レズビアン向け教育の必要性
 クリストバル氏は、フィリピンの現行の医療プログラムとHIV/エイズ教育にレズビアンへの配慮を加える必要性を強調する。調査対象者50人はHIVとエイズに関するパンフレットなどを持ってはいたが、セーフ・セックスについての知識に乏しい人が多かった。「安全さを求める気持ちと実際の性行動との間には大きな開きがある」とクリストバル氏は指摘する。レズビアン・ゲイ向け月刊誌マニラアウト誌は、国民8000万人のうち非異性愛者を約1割と見る。

▽女性に固有の感染リスク
 HIV/エイズ問題に詳しいジャーナリストのペニー・アザルコン・デラ・クルツ氏は、「女性とHIV/エイズ」のセッションで、女性がHIVに感染しやすいことに的を絞った情報提供と教育キャンペーンが必要だと訴えた。「少女は自分の体のことを知り、望まない、または危険なセックスを拒否する術を身に着ける必要がある。東南アジアのHIV感染者数の男女比は1対1に急接近している。感染源の8〜9割は異性間性交渉」と指摘する。
 デラ・クルツ氏はまた、男性とセックスした場合、女性は生物学的に男性の4倍もHIVに感染しやすいことを示す医学調査結果を引用した。その理由として「女性はウイルスに接する粘膜部が男性より広い。精液中のウイルス量は膣分泌液中より多く、精液は性交後長時間、膣内に残る場合があり、また、女性は出産時の貧血や合併症により輸血を受ける可能性が男性よりも高い」ことを挙げた。
 同様に「女性は強かん、性器切除、近親相かん時の暴力的または乱暴なセックスの被害を受ける可能性が高い」と指摘、文化上の信念や態度も女性の感染リスクを高める要因だとした上で、「処女性に高い価値が置かれているため、女性が無防備状態でのアナル(肛門)・セックスを求められ、性器部分の組織を損傷する事例が頻繁に発生している」と述べた。
 「処女の少女とセックスすれば、男性の身体からウイルスが消滅するという信仰を持つ文化も存在している。こうした中で少女たちは高額商品となり、強かんされ、強制され、あるいは売られて性産業に入っていく」と付け加えた。

▽若年層が感染対策の要
 国連開発計画(UNDP)の調査によれば、ウイルス感染症者数がもっとも多いフィリピン人女性の年齢層は19〜29歳だ。国連エイズ合同計画(UNAIDS)は、フィリピンのHIV感染者数は15〜49歳人口の0.1%未満、9400人とする。東南アジア諸国中では格段に低い数字だ。
 専門家たちは、国民の18%、約1400万人を占める男女の若年層がリスクのある性行動を行えば、将来的な感染爆発が起こりかねないと警告する。若年層の出産と性行動に関する99年の調査によれば、既婚男性の37%が25歳までに現在の妻以外の女性とも性交渉を経験し、そのために相当額の金銭を使っている。また、女性は少なくとも30%が婚前交渉を経験するが、相手は将来の夫であることがほとんどだ。
 しかし憂慮すべきことに、そうした女性の大部分が「夫の婚姻前または婚姻外性交渉が原因で、HIV感染のリスクを負うことになる」という事実がある。

【メモ】アジア・太平洋地域のエイズ 域内のHIV/エイズ患者・感染者数は昨年末で推定660万人。感染者数は1年間で100万人増加した。タイ、カンボジア、ビルマは人口の2%以上が感染し、中国、インド、インドネシアなどでは感染者数が急増している。UNAIDSは感染抑制には一貫した政策が必要だと指摘する。
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