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エイズ問題に悩むタイで今、エイズ予防、感染防止などに向けたさまざまな研究と取り組みが進み、成果を挙げ始めている。タイの医師団が中でも努力を傾けているのが、エイズ感染者・患者の母親から子供に感染する、いわゆる母子感染の防止対策だ。医師団は国連エイズ合同計画などとも協力し合いながら、さまざまな療法に取り組み、このほど、画期的な新投薬療法を見つけた。この療法によると、母子感染の確率が飛躍的に低下するといわれ、早くも各方面から関心が集まっている。政府、医師団、そして国民が一体となって努力を重ねてきた成果とされる。タイが取り組むエイズ対策の現状を報告する。
【バンコクIPS(マーワン・マカン・マーカー記者)】
エイズ対策に取り組むタイの医療チームがこのほど、エイズ感染者・患者の母親から胎児への、いわゆる母子感染の危険率を大幅に低下させる投薬療法を開発し、関係者らの間で関心が高まっている。
タイの英字紙「ネーション」がこのほど報じたもので、国連児童基金(ユニセフ)の東アジア・太平洋地区でエイズの母子感染問題に取り組んでいるタジン・ウー氏も「他のアジア諸国に先んじた立派な成果だ。母子感染の低率化が期待できる」と高く評価し、新投薬療法がさらに改良され、母子感染乳児が1人でも少なくなるよう期待を寄せている。
▽副作用なく、安価
今回の投薬療法を開発したのは、バンコクにある国立大学付属シリラート病院の医療チーム。チームを率いるポンサクディ・チャイシンワッタナ医師によると、タイではこれまで、エイズの妊婦から胎児への母子感染率は11・7%だったが、今回の新投薬療法では同率を3%にまで低下させることが可能という。
ポンサクディ医師は「この療法は副作用も少なく、従来の投薬よりも安全性が高い。新生児は誕生から8時間以内にこの投薬療法を1度だけ受ければ済む」と述べ、その効果を強調する。さらに、この療法のもうひとつの特徴は、1カ月当たりの費用が約1800バーツ(約5400円)と、これまでの治療薬代に比べてかなり安く済むことだという。
同医師はシリラート病院の医師団長としてこれまで、新投薬療法を受けていた患者たちを診断してきた。同医師によると、今回使われた薬は、タイ政府の製薬部門が新開発した抗エイズ薬で、地元紙は「母子感染の低率化をもたらす画期的な療法。安価で、低所得者層に朗報」と大々的に報じた。
▽5年間の実験の成果
約67万人に上るエイズ感染者・患者が報告されているタイでは政府が率先して、エイズワクチンの実験使用の実施や、安価な抗エイズ薬の開発・製造などに取り組んできた。
これまでの報道によると、新投薬療法は34週目以降の妊婦に対し、AZT(アジドチミジン、500ミリグラム)と3TC(150ミリグラム)を併用させ、陣痛が起きるまでの間、12時間ごとに投薬する。陣痛開始以降の投薬療法は3時間ごとに、出産まで続けるという。
この新投薬療法は既に5年間にわたり実験が続けられ、これまでの実験結果はタイ政府保健省に報告され、これを受けて政府伝染病防止局でエイズ対策に取り組むタウィーサップ・シラプラタシリ医師は「この療法を全国の病院で取り入れる前に、これまでの実験結果を再検証する必要がある」との考えを明らかにしている。
これに対し、ユニセフのタジン・ウー氏は「再検証で時間を掛けすぎるべきではない。これまでの実験結果を尊重すべきだ」と指摘し、母子感染の危険を持つ胎児を救う方策を早急に実施すべきだと強調している。
▽母子感染で約3000人死亡
国連などの調査によると、タイのエイズ感染者・患者数は約67万人と、国民(6350万人)の100人に1人を上回っている。1984年に初のエイズ感染者が発見されて以降、同数は増え続け、これまでの死者数は30万人を突破している。
このうち最も心配されているのが母子感染で、国連エイズ合同計画(UNAIDS)報告によると、タイでは昨年の1年間だけで、0歳―14歳の母子感染児2200人
―3300人がエイズで命を落としたという。
ポンサクディ医師は「エイズに感染あるいは発症した母親から生まれる子供が全員、母子感染するわけではないものの、4人に1人は感染する可能性がある」と警告する。
▽意欲的なエイズ対策
今回の画期的な新療法は、タイが数年前から母子感染防止に意欲的に取り組んできた成果の現れであり、ユニセフのタジン・ウー氏は「数年間の実験を重ねた後、1998年にタイ政府のエイズ対策の一環に組み入れられた。エイズ感染の妊婦に対し実施可能な段階にある」と指摘する。
タイは発展途上国の中では、他国に先駆けて先進諸国と協力してエイズ対策に積極的に取り組み、予防および治療面で成果を挙げてきた。
「タイはエイズ問題で国際責任を十分果たしている。今回の新療法は子供たちの救済に役立つ立派な研究成果だ」と評価するのはUNAIDS東南アジア地区担当のアンソニー・リスル氏。UNAIDSはこうしたタイの取り組み姿勢を「エイズに向けた不屈の闘争心」と称賛している。
▽新たな投与実験開始へ
今年7月初め、スペインのバルセロナで第14回エイズ国際会議が開かれ、席上、タイ政府保健省当局者は、同国が世界で初の「第3段階に当たるエイズワクチン投与実験」を実施する計画だと発表した。それによると、実験は今年末までに、全国8地区のエイズ感染者・患者1600人を対象に実施されるという。
タイ政府製薬局は今年4月、世界一安価とされる新たな抗エイズ薬の製造を開始し、これが今回の投薬実験を可能とした。新薬は1錠が20バーツ(約60円)で、1カ月続けても費用は1200バーツ(約3600円)で済むという。
同製薬局はこれまでの10年間にわたり、実に16種類もの抗エイズ薬の開発に成功、体内でのエイズウイルス増殖を防ぐ効果があるとの報告が出されている。
「われわれには、他の国が新薬を開発するのを待つだけの時間的余裕がない。この国でエイズに苦しむ多くの者たちを一刻も早く救済するのが、われわれの責務なのだ」と語るタウィーサップ医師は、タイが今後もエイズ対策の最前線に立ち、新薬開発などに取り組むとの意欲を強調する。
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